明日の指針を求め合う、産業・分野横断的な感動的出会いの機会と場となることを願って

代表 松尾 隆

 去る1982年、同士が相語らい、急変する企業環境と科学技術本流の画期的変化が始る中、 各企業がそれぞれの特徴を発揮し、日本独自の技術・製品開発と独自の企業価値の創出を求め合っていこうと、主としてわが国製造業の経営トップ、当時の“技術開発”と“ものづくり”の中心にあった役員・幹部、そして私たちの願いにご賛同いただいたアカデミアの方々が産業・専門分野横断的に交流、相互啓発し合える機会と場の必要を求め合って発足いたしました弊会は、今年、お陰をもちまして、新たな発足ともなる発足41周年を迎えさせていただきます。


 思えば長い道のりであったようでもあり、瞬く間のことであったようにも思います。

 関係者一同、改めて、これまでにいただいて参りました皆様の厚いご支援に、唯々深甚の感謝の念を表するばかりです。


 さて、この度、弊会の新たな門出 発足41周年を迎えるに当り、是非、皆様にご紹介させていただきたい言葉があります。それは1916年(大正5年)、インドの詩聖 Rabindranath Tagore(ラビンドラナート タゴール:1913年 アジア人初のノーベル賞受賞者)が初来日の折、慶應義塾大学で行った講演「日本の精神」の一節です。


「日本が自分の偉大さを認識することを怠ろうとする、差し迫った危険にあるかに見える今日、その日本に、日本は一つの完全な形式を持った文化を生んできたのであり、美の中に真理を、真理の中に美を見抜く視覚を発展させて来た、そのことを再びあなた方に思い起こさせることは、私のような外来者の責任であると思います。日本は、明確で完全な何ものかを樹立したのです。それが何であるかは、貴方がたご自身よりも、外国人にとってもっと容易に知ることが出来るのです。それは紛れもなく、全人類にとって貴重なものです。それは多くの民族の中で日本だけが、単なる適応の力からではなく、その内面の魂の底から生み出して来たものなのです。」


 このタゴールの言葉に私が初めて出会ったのは、1968年12月に日本人として初のノーベル文学賞を受賞した川端康成が1969年に著わした「美の存在と発見」においてでした。


 私は、日本は世界で最も優れた文化を持つ国だ、などと言っているのでは勿論ありません。

 

 嘗て岡倉天心は、当時、民族の誇りと自信を失いかけていたベンガルの若い世代の精神に、「すべての民族は、その民族ならではの掛け替えのない魂の資産を持っています。そして、それぞれの民族は、この自らの中にある最上のものを世界に現わす義務を持っているのです。あなた方ベンガルの若い世代は、あなた方が持つ掛け替えのない富である高潔の魂、自国の文化と精神を、目先の損得を超えて他の世界へ送る豊かさ持たなければなりません。」と、渾身の想いを籠めて訴えてくれたと、 Rabindranath Tagoreは、この慶應義塾大学での講演で、天心への心からの感謝を籠めて、その時の天心の言葉を改めて日本に紹介してくれたのでした。


 タゴールは、日本民族は「美の中に真理を、真理の中に美を見抜く視覚・文化」を育んできた。それが世界にとってどんなに貴重なものか、日本はもっと自覚してほしい、と言ってくれたのです。


 私が心から尊敬する日本の工業デザインの草分け 故榮久庵憲司先生は、「工業の成熟を想う時、数をこなす必要がある料理“幕の内弁当”に、効率と同時に美が最優先されたことは余りにも学ぶべきものが多い。」と語っておられましたが、このお言葉は今も私の胸中深くで響いています。


 私たちは今、今日のあらゆる機器/システム/情報関連分野を牽引し始めたIoTやAI技術などデジタル技術、今まで未知であった世界を開き始め、核心に入り始めた今日の生命科学など生物科学、顔を覗かせ始めた次代を牽引すると思われる量子科学技術など、科学技術本流の画期的変化の時代を迎え、加えてカーボンニュートラルなど環境と資源・エネルギー問題、更には今世紀最大の根本問題といわれる、人間の多様な文化の生死に関わる21世紀の新たな本質的諸問題に直面して、その対応に迫られています。


 それは同時に、日本は如何にして、日本が生み出した日本ならではの“技術力”と”ものづくり力”、独自の”企業価値”を如何に”グローバル競争力”に転換し、更には”グローバル貢献力”として世界に発信していけるか、を問われていることでもあると私は確信しています。


 それは、わが国の文化の基層にある”わが国独自の世界観と価値観、美意識”を如何に今日の世界に発揚、輝かせ、世界の多様な文化と共鳴しながらわが国ならではの特徴と強みを発揚、日本ならではの世界貢献への道、今後の新らたな時代の創出を先導していける可能性を持った日本のヴィジョンと夢ある挑戦を世界に発信していけるか、が問われていることであると信じている次第です。


 企業の命とは企業規模の大小、ビジネスの如何にかかわらず、それは企業が持つ夢と精神、この企業、或いはこの組織をこうあらしめたいと願うトップの強烈な欲求、その実現への揺るぎない意思である。技術・製品・事業・企業文化というものも、この初めにある企業の、そしてそこに携わる人々の夢と精神、志と誇りの結晶に他ならない、と信じています。


 この未曾有の時代環境激変の今日、私たちは産業と分野、組織の大小、国と文化の壁を取り払って今日の各々の問題意識とビジョン、夢と挑戦的試みを交流し、“感動的出会い“の機会と場を開きたい。その感動的出会いが既成の通念を打ち破って新しい多様な世界に目を開かせ、明日の指針と希望を開き、ひいては人間形成への掛け替えのない機会となる、と確信する次第です。


 新経営研究会の歩むべき道の“命(いのち)は、①“感動的出会い“、②“原点と本質に立ち返って考え合い“、③“夢とヴィジョンを語り合える“ 機会と場の創出と今後とも定めて邁進して参りたい、と願っています。


 本会の趣旨にご賛同いただき、皆様のご支援を賜われましたら、これに勝れる喜びはありません。

                                 (新経営研究会 代表 松尾 隆)

 

 

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