随想随感

新経営研究会 代表 松尾隆 2023年6月21日(改定)



松尾 隆

 これは、私の折々の思い、また折にふれて核心的啓示となって甦って来る 私の心の奥深くに刻まれた先人・その道の達人といわれる方々からいただいた金言玉句です。
 極めて雑然とした思い、徒然の記録でありますが、一つ一つの思い、またいただいた金言玉句は新経営研究会の精神的基盤、活動の中核として、今も原点としてあるものです。
 改めて自己確認を兼ねてご紹介させていただき、皆様の今後のご支援を衷心よりお願い申し上げてやみません。
 また、皆様の何らかのお役に立てれば、これ以上の幸せはありません。
  ※文末の()は出典、文末に()のないものは総て松尾隆本人の所感


全ての根元は 命 愛 希望 夢 誇り 感動 誠意 情熱 そして時に悲しみと怒り
悲しみも怒りも 絶望でさえ いつか “祈りにも似た願い 夢”となる
企業また組織の命とは 規模の大小 ビジネスの如何にかかわらず それはこの企業 あるいはこの組織をこう在らしめたいと願うトップの強烈な欲求 その実現への揺るぎない意思である 技術 製品 企業文化というものも この元(はじめ)にある企業のまた組織の そしてそこに携わる人々の夢と精神の結晶に他ならない
如何なる事業の経営においても その産業について独自の定見が不可欠である 同じ産業に属すると見られる企業の間に その産業について考え方に違いがあれば それは最も強力 かつ決定的な形で 相互の競争力として現れる傾向にある(Alfred P Sloan Jr)
全てを動かし 変えるのは “夢”(入交昭一郎/元本田技研工業(株) 副社長 元(株)セガ・エンタープライゼス社長 )
アイルトン・セナでなくても エテ公で勝つ車 ??(入交昭一郎)
いのち短し恋せよ乙女 赤き唇あせぬ間に 熱き血潮の冷えぬ間に 明日の月日はないものを
(吉井勇ゴンドラの唄 私の結婚披露宴で 君のためにと心一杯に故川喜田二郎先生〈文化人類学者〉が熱唱してくれた唄)
高い視点と広い視野!(和田昭允/東大名誉教授 元理学部長、元ゲノム科学総合推進センター所長:新経営研究会に常に求め続けていただいたお言葉)
ふりかえってみると こんなに たのしい思いで本を作ったことは これまで一どもありませんでした(中略)いく晩も みんなで夜明かしをしましたし(中略) すこしも つらいなどとは 思ったこともありませんでした この本は けれども きっとそんなに売れないだろうと思います(中略)私たちは貧乏ですから 売れないと困りますけど それどころか 何十萬も 何百萬も売れたら どんなにうれしいだろうと思いますけれど いまの世の中に 何十萬も売れるためには 私たちのしたくないこと いやなことをしなければならないのです この雑誌をはじめるについては どうすれば売れるかということについて いろいろのひとにいろいろのことを教えていただきました 私たちには出来ないこと どうしてもしたくないことばかりでした いいじゃないの 数はすくないかも知れないけれど きっと私たちの この気もちをわかってもらえるひとはある 決してまけおしみでなく みんな こころから そう思って作りはじめました でも ほんとは 売れなくて どの号もどの号も 損ばかりしていては つぶれてしまうでしょう おねがいします どうか一冊でもよけいに お友だちにもすすめて下さいませ(大橋鎮子 暮しの手帖創刊号 後書:新経営研究会も同じ気持ちで出発し 今日を迎えています どうぞどうぞよろしくお願いいたします)
力に余るからやる!(私が28才の青年時代、湯川秀樹先生が私に贈ってくれた激励の言葉)
“松下村塾” それはとくに優れた人材が集って あれだけの指導者を輩出したのではないと思う 国の行方に危機感を持ち 個性を異にする若い同志が縁あって出会った尊敬する師 吉田松陰の許に相集い 真剣に悩み考え 志を確かめ合い 将来の日本の方向と形を求め合う集団をつくり得た人々が その過程で安定した精神的基盤と自己の中核を自らの中に創り上げていったのであって これが自信と充足感となり 後に指導力となって現れたのだと思う 一人で思い悩む人間には 残念ながらこの自信と充足感を生み出せない(1963年 篠田雄次郎/私の中核となっていった最初のお言葉/上智大学教授・日本能率協会 国際事業部長/私を同会に招いていただいた嘗ての上司/経済同友会 代表幹事 木川田一隆氏の特別顧問)
今 自分に大きな夢や志が見えないからといって 焦ったり自信を失わないでほしい! 必ず 思っても見なかった出会いが 君の夢 志を開いてくれる! 皆 最初から大きな夢や志を持っていたのではないのだ!
大切な出会い そして縁
出会いも閃きも 思わぬときに訪れる
創造と破壊 そして他を抹殺しても生き延びたいという殺し屋の血を滾らせ 一方で 生き甲斐と仲間なしでは生きていけないという 矛盾撞着した心を同根に持つのが 人間が人間である姿 人間のあるべき姿を論じる前に 人間である姿を理解していないと 空論になる(時実利彦/元東大脳研究所所長)
悩み 苦しむ ということが 人間が人間であることの証(時実利彦)...なのだという
人間は現在という瞬間だけでなく 過ぎ去った過去と 明日という希望 未来の中に生きている(時実利彦)
鋤(すき)を手にして夢見る人(TVA総合開発の中心的指導者 David Eli Lilienthal)
手ですくった砂が 痩せ細った指の隙間から洩れるように 時間がざらざらと私からこぼれる(高見順/詩人・小説家)
人を殺すに刃物はいらぬ 打ち込む対象を取り上げ 本人が無意味と思うことをやらせ続け 村八分にし 最後に一切の情報を断てばよい この逆をやっているのが名リーダーと言われている人たちなのだ
明け方 漁船が帰ってくると 工場のトラックが待っている 魚種ごとに魚の目方をはかったあと 工場にはこび タンクに汚染魚を捨てる 悪臭を放つ魚に 市場値の金が払われる はじめのうちは 取れば取るほど金になるので 精を出して出漁する人もいた が やがて 漁師たちの疑いがふくらんでくる 毎日 海に出るのは 捨てるための魚を取るためではない 金になりさえすればよいと いつまでも割り切れるものではない たとえささやかでも 自分の仕事に何らかの意味がなくては生きて行けない 「何のための人生か 漁民だっておいしい魚を食べてほしいのだ」「情けのうて涙が出ます」と口々に訴える声は胸をえぐる 岩国だけではない 敦賀湾でも 工場のコンクリート箱に投げ捨てるため 人々は漁に出る ゆがんだ社会は とうとうここまで来てしまった(深代惇郎 天声人語/朝日新聞/1973.6.10)
遠い記憶を呼び起こす この無性の懐かしさ 心の安らぎ 魂の震えは何処から来るのか...(おわら風の盆にて)
カシミールの織物がどんなに美しいからといって それをわれわれが先端技術を駆使して どんなに精巧に再現しようとしても所詮模倣にしかならないのです それは そのものの生まれた背景と人の心が結びついて美しいものになっているのです とうてい歯の立つものにはなれないのです(志村ふくみ/染織家・紬織の重要無形文化財保持者)
われわれの核となるものは 各々の民族が各々の歴史と風土の中で培い 発展させて来た 今われわれの内にある この精神と美意識 感覚をおいてない
皇居造営審議会から出た新宮殿の様式は「日本古来の伝統を重んじた(中略)鉄筋コンクリート造りの現代建築」というものだった しかし「新宮殿の伝統」とは何なのか(中略) 私どもは現代に生きている(中略) 私は私なりに考え抜いた そして「現代建築」という言葉だけにすがることにした(中略) 徒らに過去に拘泥することなく 視点はあくまで現代におくべきでないか 伝統といっても それが脈々と現代に生きているのでなければ無意味だろう 私どもの血液の中に動いているものだけが 顧みるに足る伝統なのだ(中略) 次に 宮殿は一国を表徴するものでありたい それ故 現代の日本が持っている最高の技術的到達と芸術的水準を示すものでなければならぬ(中略) 最後に(中略)私どもは日本の宮殿をつくるのだ(中略) 日本人だけが造り得る宮殿を建てるならば それは逆に世界の文化に貢献することになるに違いない(高尾亮一/宮内庁 新宮殿造営部長)
日本は美の中に真理を 真理の中に美を見抜く視覚を発展させてきた そのことを 再び(日本に)思い起こさせることは 私のような外来者の責任であると思います 日本は 明確で完全な何ものかを樹立したのです(中略) それは紛れもなく 全人類にとって貴重なものです それは多くの民族の中で日本だけが たんなる適応の力からではなく その内面から生み出して来たものなのです(中略) それが世界にとってどんなに貴重なものか 日本はもっと自覚してほしいのです(Rabindranath Tagore 1916年 初來日の折 慶應義塾大学で“日本の精神”と題して行われた講演の中の一節)
すべての民族は その民族自身を世界に顕す義務を持っています 何も顕さないといふことは 民族的な罪悪といってよく 死よりも悪いことであって 人類の歴史において許されないことであります それぞれの民族は 自らの中にある最上のものを世界に提出しなければなりません これはまた その民族の富である高潔な魂が 目の前の部分的な必要を超えて 他の世界へ 自国の文化 精神への招待状を送る豊かさなのであります(岡倉天心/民族の誇りと自信を失いかけていたベンガルの若い世代の精神に その誇りと自信への覚醒を 渾身の思いを籠めて訴えた言葉)
ゆがんだ茶器や花器など 欧米では不良品とされるものが 日本では逸品として高く評価されることがある 非合理 非論理が入ってはじめて命が入ったように思える(中略) 土を練って火で焼くのであるから ゆがみやひびを生じることは当然わかる (こうして)ゆがみやひびに縁を感じる 自然とのつきあいを深くしてきた農耕文明の これは観念であろう この観念の崩壊が 諸々の“近代化のつまらなさ”を現象させている(栄久庵憲司/日本の工業デザインの草分けのお一人)
日本の資質を顕在化させる原動力は 技術の背景をなす哲学にある(中略) 宗教が生活学であり 産業が哲学の実践であるような 世界に類を見ない文明が 日本には成り立ってゆく素地がある(栄久庵憲司)
工業の成熟を思うとき 効率と数をこなす必要が求められる “幕の内弁当” に 美が最優先されてきた事実 “美を機能の最先端におくものづくり” には学ぶべきものがある それは “多元なものを統一する秩序をもって美とする造形美” の発見であった(榮久庵憲司)
技術は一見 グローバルに普遍的に見える しかしその実態は 技術とはその技術を生み出した人々の “ものの見方と価値観、美意識” に深く根ざす 文化的所産なのだ これは AI や IoT などデジタル化を進めるに当って とくに心すべきことである
私たちは日本の文化的所産 “日本の価値観と美意識” “ものの見方” を土台とする 日本ならではのオリジナルな技術・製品開発とものづくり システム 独自の企業価値の創出を求め続けたい “デジタル化 AI化” に於ても同じ それは 今後日本の真の競争力となるばかりか ラビンドラナート タゴールや岡倉天心が期待する通り 日本ならではの 掛け替えのない真の世界貢献となる筈だ!
美と個性と伝統 それは現わすものでなく 現われて来るものだ
美と伝統に鋳型はない !
日本の伝統というものは かたちではなく 人の心に引き継がれていく(池波正太郎/時代小説作家)
個性は われを忘れているときに現われる(川喜田二郎)
進化とは 豊かな生命量の増大! 地球が多様な生命で充たされていくこと!(川喜田二郎)
オールドローズは周囲に溶け込んで咲き 現代の薔薇の多くは周囲に際立って咲く 私はいずれも美しいと思う
池之端の国田ってえ人の桐箱なんぞ 木口の切れの良さは全く眺めて胸のつかえのさがるようなもんだったよ しかも 磨かずにチャーンと艶が出ている 今は合わせ鉋で削っているところを昔は一枚鉋でやるからだ 今と昔は道具が違うし 職人の腕が違うし またその心がけが違うから 出来上がる品物が違って来るわけだ 不思議はねえ ものごとは順にいってらあ(溝呂木義郎/指物師)
「化学で貴女と同じ色 出せますよ」とおっしゃって持って来て下さる方もあるんです でも私は「0.01ミリね 私の色と違うんです」っていうんです 「そのくらい いいじゃありませんか」とおっしゃるのですが「私は その0.01ミリが問題なんです それがこの背後の世界に通じる道なんですから(後略)」っていうんですけど その方はそこが解らないとおっしゃる(志村ふくみ)
毛筋一筋 紙一重の違いが 実は天地の隔たり
そうは言ってもインスタント時代 手早くしなけりゃあ商売にならねえ ってのは大方のご意見だろうねえ 安くて手軽で お客が喜びさえすりゃあ 品物がどうであろうとそんなこと知っちゃあいねえ ってえ店と職人が多くなっちまった それじゃあおために悪いです なんて客の注文にチャンをつけて 折角の客を怒らしちまうなんてことがあたしにはよくある みすみすよくないものを客の注文だからって あたしにゃあ作れないからねえ…(溝呂木義郎/指物師)
あたしらの商売が斜陽だってえことは どうやら間違いないねえ けれどもものは考えようでさ こうなったらなったで ものを本然に返しゃいい 一度は職人根性から商魂に傾いたんだが もう一度心を入れかえて 無理は止めて元の職人根性に返ればいいんだとね そう思うようになったんだが そうじゃねえだろうか(横山吉次郎/塗師)
何によらず 極められたもの 極めようとしている人の姿には心を打たれる
ある早春 桜の枝をいただいて早速煮出して染めてみますと ほんのりとした樺桜のような桜色が染まりました たまたま 九月の台風の頃 桜の大木を切ると聞いて 喜び勇んで出掛けました しかし そのときの桜は 三月の桜と違って匂い立つことはありませんでした そのときはじめて知ったのです 桜が花を咲かせるために樹全体に宿していた命のことを 一年中 桜はじっと 命が色に変わるのを待っていたのです 知らずして 私はその花の命をいただいていたのです(志村ふくみ)
芯と軸
全体を一つの思想 美意識で貫く‼︎
徹底出来るか出来ないか そこが全ての決め手
木組みは寸法で組まず 木の癖で組め(西岡家に伝わる法隆寺宮大工口伝)
法隆寺・薬師寺宮大工棟梁 西岡常一氏と内弟子 小川三夫氏
(三重塔を背景に再建なった薬師寺金堂前で 1979年頃 小川三夫氏提供)

人間には 大まかに言って先ず完結した確固とした到達目標 グランドデザインを定め そのブレークダウンという手順でデザインを完成させていく行き方と 桂離宮のように 最初描いた絵の上に折々の思いを重ね 修正を加えながら ある姿に辿り着いて行く このような 2つの行き方があるように思う 私は どちらが優れているとは言えないと思う
伝世の文化財 これが日本の博物館の特色 発掘したものを展示しているのではない(赤尾英慶/元京都博物館 文化財保存修理所 所長)
千年生きよった檜の材は 千年の命がありますのや(西岡常一/元法隆寺・元薬師寺宮大工棟梁)
ある大手製造業のCTOが嘗て私に言った言葉 今どき千年もたせる努力を評価して そこにどんな意味がありますか ?!
命を最も重視し 素材の生命を全うさせようとした 古代人のものづくり
日々変わり 今日のものは明日はない...
優れた和紙は 歳と共に品格と風格を増し 美しく老いていく(安達以乍牟/公財 アダチ伝統木版画技術保存財団 理事長)
健康に老い なお矍鑠(かくしゃく)として品格を失わない老境の藍の色を “瓶覗き(かめのぞき)”という(志村ふくみ)
刹那に生きることを強いられた 今日の “モノ” たちの悲哀と素顔
ついこの間まで 私たちは年と共に品格と風格を増し 美しく立派に年をとっていく 様々なものに囲まれていた 家々の柱や梁にしてもそうであったし 寺社の石段はもちろん 身の回りの食器や調度 家具 道具 皆そうであった 街とか界隈といわれるものもそうであった そこには 人々のこれまでの生活の息づかいが 記憶として刻まれていた それをわれわれは底光りと言った 今 私たちを取り巻く素材 製品のほとんどは 磨き上げたくとも それは劣化を早めるだけで ある日 突然 醜く壊れてしまう
年と共に美しく 気品と風格を加え 老いていく そのような素材 製品というものを 私たちは再び 身の回りに取り戻していくことは出来ないものか
経済合理主義への美意識の反逆が いずれ必ず起きる(多田道太郎/元京大名誉教授)
利害 得失による判断は当然だが 美意識による判断 決断もあっていいのではないか
効率が上がってコストが下がり 利益が上がればそれでいいのか! その成果と引き換えに支払った代償は如何なるものだったのか 分かっているのか?!
理論や知識でマネジメント知識を身につけても 百害あって一利なし!!
現在の日本食ブームは 世界の健康ブームに乗って時を得たように言われるが それだけではない そこには敗戦直後 ガスマスクがいるほど臭いと言われながら 醤油の風味を世界に知ってもらいたいと ニューヨークなどアメリカの店頭で醤油を使用した食品の試食販売など キッコーマン茂木友三郎名誉会長などの血の滲むような努力があった 日本の化粧品もブルーミングデールなどでの戦後初期のアメリカ市場開拓中 日本人もお化粧するの?と聞かれて屈辱感に涙を流し それでも日本の化粧品の質の高さを知ってもらいたいと懸命に努力し 遂に多くのアメリカ人女性の信頼を得て愛されていった資生堂の永嶋久子さんなど 多くの方々の真摯な思いと努力が世界の人々の心を捉え 日本製品の評価を高めていった そこには 送り手である経営者と開発者 生産者 日本商品の素晴らしさを世界に知ってほしいと願った 多くの人々の真摯な思いと懸命の努力があった 今 この歴史が忘れられていないことを願う
自分の直感を信じる勇気を持ちなさい!!(スティーブ・ジョブス/Appleの創業者)
最後の意思決定は 如何なる場合もその人間の価値観 美意識 覚悟 即ち生き方で決まる
ペルリが幕府に献上した天秤を 日米修好通商記念として 科学博物館が持ち主の了解を得て米国に貸し出したことがある 後に天秤はピカピカに磨かれて戻って来た もちろんこれは米国の善意だが このときの責任者だった私は頭を抱えてしまった ものの考え方や見方は これほどに文化によって大きく違う(鈴木一義/独法・元国立科学博物館 産業技術史資料情報センター所長)
ものに映る つくり手の精神と内面の魂 手先 息づかい
最近 われわれの身の周りから 熱い想いや夢 誇りを感じさせるものが少なくなって来た 送り手の熱い思い 夢 確固とした信念から生み出されたものでなく ただ競争を因とした差別化 経済性を第一に生み出されて来た技術・製品がどうして人々の心を打ち そこに携わる人々の心を結集して行けるだろうか
ブランドとは 伝統と誇りと信用の象徴(片山豊/米国日産自動車創設者 フェアレディZの生みの親)
ものに求められている品位 感動 持っていることの充足感
自然に咲く花は美しい 枯れかかっても深いものを感じる それが造花にない それが生命だというが 不思議だ
考えてみれば 路傍の石も 山肌に見えるあの岩も美しい 石や岩にも生命があるのだろうか
一里(ひとざと)は みな花守の子孫かや(松尾芭蕉)
(美しさ)を感じる能力は誰にでも備はり さういふ姿を求める心は誰にでもあるのです たゞ この能力が私たちにとって どんなに貴重な能力であるか 叉 この能力は養ひ育てようとしなければ衰弱して了ふことを知ってゐる人は 少ないのです(小林秀雄/評論家)
四十八茶百鼠 茶に48色 鼠に100色ありというほど 色彩について嘗て類稀な繊細な感覚を培い それぞれの色に名前をつけて来た日本人 この日本という自然の風土と長い年月の下に醸成され 日本文化の大きな特色の一つとも言えた 繊細を極めた色の感覚が 今 日本から消えていこうとしていないか...
砂鉄と木炭をもとに 窯土で構築された炉内で日本刀の素材となる高純度の玉鋼(たまはがね)を生産している 世界唯一 千数百年の歴史を持つ“たたら製鉄”という製鉄法がある 高炉に代わられる明治中期にはその技術は最高レベルに達して繁栄し 嘗ては玉鋼に限らず 日本の鉄の全生産を担っていた ただ この「たたら製鉄」が1回の操業で必要とする炭の量は1ヘクタールの森林に当るという しかし驚くべきは 「たたら製鉄」では 千数百年に亘り 伐採した森林を40年サイクルで再生させ 砂鉄採掘も制限して過当競争を防ぎ 操業されて来たという この基本思想は 嘗ては日本のモノづくり全般に 通奏低音のように流れていたという 鉄文化を生んだヒッタイトが 燃料獲得のために木を全て伐採して森林を失い 滅んでいったし 世界の文明衰亡のほとんどが森林伐採によるものだと言われることを思えば 驚嘆に値する 是非この日本のモノづくりの原点を 世界に誇るモノづくり文化 哲学として 伝承 継承していきたいものである
この“たたら製鉄”の技術 操業の最高責任者 村下の木原明氏によると 村下は人間の五感を総動員して炎の色や勢い 炉内から聞こえる砂鉄の“しじれる音” ノロの出方などから 見えない炉内の複雑な変化の一瞬一瞬を読み取り 臨機応変に対応するのだという 木原村下によると 村下に不可欠の能力は火を見る“感性”だそうだ 炉内の変化は全て火に現れるからだという これを読み取れる現代技術はない(村下とは“たたら製鉄”における技術・現場操業の最高責任者)

1998年「たたら製鉄」における玉鋼生成のメカニズム解明について徹底的な科学調査が行われた しかし 遂にその解明に至らなかった また今日の先端技術をもってすれば 現代技術による玉鋼の生成も不可能ではなかろうと 東北大学はじめ幾つかの大学が協力し合って研究が進められたが 結局 完全な失敗に終わったという 「たたら製鉄」の技術的解明も そのプロセスを現代技術に移し替えることも 残念ながら今のところ 現代最先端の科学技術をもってしても不可能なのだ
 
〈左〉私の人生の師 書家 故小野田雪堂氏 書画〈右〉たたら製鉄操業現場

尺八など 日本の伝統楽器に “さわり” という奏法がある “雑音” と取られかねない音である 楽譜には表せない しかし ここに日本の楽音の “いのち” 本質が現れているように私は思う
持ち運べる音 持ち運べない音(武満徹/音楽家)
不純物 夾雑音といわれるものが深みを生んでいる
不均衡 不揃いの部材が生み出す強さと美しさ(西岡常一)
十五夜の夕 夕去りの茶事に招かれ 手燭に導かれて席入りし 暫し経って気づくほの暗い茶席の釜の湯の静かに滾る音 亭主の気配 衣擦れの音 やがてぼんやりと見えて来た茶碗や棗 お点前の所作 床の間の柱に掛る まだ固く結んだ夕顔の蕾
今 すべてが明るく照らされて 何も見えなくなってしまった
普遍性 利便性 効率化 経済合理性の追求が いつか切り捨て 振るい落として来たものの大きさ
地球にやさしい? 何と身の程を知らない 軽薄な言葉だろう
自然の命と人間の命との合作が 文化ちゅうもんではないかと感じますねん 人間の知恵なんて底が知れてます 自然というものを離れて 人間の知恵だけで生まれたものはただテラテラするだけで 本当の美しさや深みがない ということでっしゃろかなあ…(西岡常一談)
浮世絵版画に現われている色は絵の具本来の色ではなく 和紙の繊維とのコラボレーションによって生まれている色なのだ そして 和紙の繊維と絵の具は 歳月とともに 寄り添うように品格と風格を増しながら美しく年老い 作品は落ち着いて 創作時より更に味わい深いものになっていく(安達以乍牟)
人間の知恵というものが もっと自然の生命を憶い 怖れるところから生み出され もっと自然と人の生命が輝く方向に 使っていけないものか
この世界最高解像度を持つ「1MVホログラフィー電子顕微鏡」は この電子銃 電子レンズも全て 日本の現代の匠の方々なくしては実現していなかったのです(外村彰/電子顕微鏡の権威 物理学に新分野を切り開いたと言われた方 元日立製作所フェロー )
「すばる望遠鏡」の主鏡は驚異的限界精度に近い研削加工で作られていて これを磨くとレンズに瑕がつくという このような超がつく技術 技能を持つ中小 中堅企業が日本には多いのだが…
送り手の熱い思いから生み出されたものでなく 目先の競争と差別化が目的で生まれて来た技術 製品がどうして人々の心を打ち そこに携わる人々の心を結集して行けるだろうか
最近よく聞かれる “差別化”という言葉
差別化と独自性 切磋琢磨とは 似てもいず 非なる世界
“いのち”あるものを感じられず 背後にそれを生み出して来た人々の熱い思い ひたむきさ 精神性を感じられないものを生み出し 囲まれつづけると 人はいつかそれに慣れて瑞々しさを失い 心を砂漠化してしまう
他の動物から今の人間を見たら きっとみんな 出目金のように見えるのではないか 余りに周りに気を取られ 目ばかり飛び出させて キョロキョロしている
理解の理は大理石の理 理髪店の理 筋道をたてて解することが理解 しかし全てが筋道を立て 理解 説明出来るとは限らないのが 現実の生きたほんものの世界!
貴方に好きな人がいるとして どれだけ理解していますか? 理解しなければ愛せないのですか?
「理解する」と「打たれる」「心奪われる」「悟る」は異次元の世界
Here lies one who knew how to get around him men who were cleverer than himself
己より優れた者に囲まれ 共に成すことの出来る術(すべ)を知れる者 ここに眠る(カーネギー墓碑)
最近 何故みんな 「自分の目の黒い内に…」 とばかり考えるようになってしまったのだろう
研究開発のスピードアップと効率化 これが今日の殆どの日本企業から聞こえて来る合言葉
欧米の技術開発の成功率はほぼ0.6% 日本のそれは70%近い だから日本は優秀だと思うのは飛んでもない間違いだ 欧米は“種”の存在に驚きを以て気づき その不思議の解明から独創技術が生まれている 翻って日本は 官民共に危ない橋 遠い道は避け 欧米の動向を探り その中から大事と思う しかも工業化の先が見え始めた“芽”を拾い集め 実用化開発に取り組んでいる これで日本が先端技術で世界TOPの座に立てる訳はないし 世界の尊敬を集められる筈もない!(西澤潤一/半導体の権威 元東北大学学長)
英国鉄道史上最大規模(5,500億円強)英国高速鉄道プロジェクト(IEP:Intercity Express Programme)における 日立 シーメンス ボンバルディアの国際入札で 日立は最大の難関 安全基準をクリアーし It's proven?! に代表されたペーパー トレイン疑惑を払拭して シーメンスと共に最後の大詰めのネゴを迎えていました
運輸担当大臣から「英国には遊休工場が少なからずある 日本に決ったら 最初のロットは日本から送ってもらうにしても 後は英国で造ってくれるか?」と 要求に近い相談がありました 熟慮の末の私の応えはノーでした 大臣は渋い顔をされ 横にいた営業の者は真っ青になって これで全て終ったと思ったようです そこで「ここでハイと申し上げれば ご発注いただける可能性は大きくなるかもしれません しかし それでは恐らく2012年のオリンピックに納期が間に合わなくなる恐れがあるのです それは 人材育成に時間が掛かるのです 大変残念ですが これが条件でしたら 今回 私たちは諦めます それは「日立のセールスポイントは“お客様との約束を必ず守る” この一点に尽きる」からです
幸い これは契約決定の条件にならず 鉄道発祥の地・英国における高速鉄道プロジェクト(IEP)の最終受注先は日立に決定したのでした そして忘れもしない 2009年6月 エリザベス女王のご臨席をいただいて セントパンクラス インターナショナル駅での先行営業運転式典が挙行されました(桑田芳郎/元(株)日立ハイテクノロジーズ 代表取締役会長)
1978年 日立は入札一位の競合他社より5%も入札価格が高かったににもかかわらず オーストラリアのタロン火力発電所向け 350MWキロワット 石炭焚きタービン・発電機 4機の初受注に成功しました この体験こそ 後の英国高速鉄道事業はじめ 私の日立におけるグローバル事業の原体験 決定的な土台となったものでした 私がまだ副部長のときでした
契約直前 発注元 QEGB 総裁 フレッド マッカイという方が最終的に現地調査に来られて 最後に当時の庄山悦彦社長に「日立のセールスポイントは何ですか」と質問がありました 恐らくマッカイさんはじめ皆んな「日立は 50インチの超大型タービンブレードをつくれるとか、高速加工装置がある」とか 日立ならではの技術をあげると内心皆期待していたのですが 社長の返事はたった一言「われわれにセールスポイントというものがあるとすれば それはただひたすらお客様との約束を守るということでしょう」マッカイさんはじっと聞いていて「分かりました」で終わりました そして このタロン・プロジエクトは日立が受注することになったのです
国際競争を左右するのは技術力だけでない 日本が持っている誇るべきカルチヤーを基盤に どれだけ自信を持って世界に出ていけるか これが決め手なんだ とここで私はつくづく感じたのでした これは後に 英国への高速鉄道の進出の際 英国の運輸大臣から出た現地生産の要求に対して ノーと私に言わせた大きな背景ともなったのでした(桑田芳郎)
2015年9月 契約時に果せなかった 英国ニュートンエイクリフに設立の鉄道車両工場の開所式が キャメロン英国首相はじめ 500名以上のご来賓を迎えて挙行されました 英国で市民権を得て行く国際事業基盤の誕生でした(桑田芳郎)
今後日本の事業が世界で生きていく道を考えるとき それは「水平分業というグローバル化」 即ち「ローカリゼーションへのグローバルな努力」以外にない と思っています これから日本が進むべき事業の国際展開へのシナリオは 相手国とのパートナーシップが組めるように戦略的にきちっとすること これがわれわれ日本企業の今後の大きな課題ではないかと思っています。(桑田芳郎)
最近あまり見られなくなった壮大な夢 悠久への眼差し
何故この頃 皆んな 自分の目の黒い内に とばかり考えるようになってしまったんだろう
世代を重ねて… 世代を超えて
回復したい “迎賓の心”(榮久庵憲司)
かつて 自分のためだけでなく いつ見えるかも知れない客をもてなすために モノや環境を求めていた時代があった 食器や客間もそうしたモノの一つだった
貴方のおっしゃる “Custmer's Satisfaction” という言葉に この迎賓の心は含まれておりますか ?
天の川銀河
「今日があって明日があるのではない 明日があって今日があるのだ」 「今日があって明日があるのだ 先ず今日を生き抜くのだ」
どちらも事実だろうが いざとなったら 貴方はどちらの生き方を取ると思いますか?
「人間が本来持っていた生き物としての時間」この回復が 21世紀最大の課題の一つだと思う(本川達雄/東京工業大学 名誉教授)
私たちは「時間は万物に一定不変」と思っているが 「ゾウとネズミ」では 流れる時間の速度が違う 時間には「生物時間」と「絶対時間」があって 「生物時間」は 体重が増えるとゆっくり流れ それは体重の1/4に比例する それは エネルギーの消費量に比例して生物時間は速くなり ハツカネズミの寿命は2〜3年 インド象は約70年 しかし 象もハツカネズミも 心臓が一生に打つ数は どちらも15億回と同じなのだ 象の一生もネズミの一生も その一生感は 案外同じようなものなのかも知れない(本川達雄)
現代日本人の標準代謝量は2200W この2200Wの標準代謝量を持つ動物を求めると 体重4.3tの象に行き当たる エネルギー消費量 標準代謝量という目からすると 現代人はかくも巨大な生き物になってしまっているのだ(本川達雄)因みに 人間が本来 生物として持つ寿命は 江戸時代がそれに近かったそうだが 40才前後だという
今まで 環境問題というと温暖化や環境汚染などが中心となり 時間環境が取り上げられたことはなかった “時間は一定不変”という通念が この発想を阻んでいたのだと思う 時間がもう少し「ゆっくり」流れるように努力し 日常感じる時間が体の時間とそれ程かけ離れないようにする 時間環境をそのように出来れば 私たちの今日のストレスやエネルギー問題も 自動的に解決する筈だ 時間環境問題は 環境問題の中でも 最重要なものとして取り扱われるべきだ と思う(本川達雄)
ここに あすかちゃんという小学生のお嬢ちゃんからいただいいたお手紙と お母さんのコメントがあります 「あすかは はやぶさ君が大気圏に突入して バラバラに燃え散っていくニュースをテレビで見て 涙をポロポロ流しながらこの手紙を書いています」とあるんですね 「幼い共感と感動が未来をつくる」そう 私たちは今 確信しています 多分 あすかちゃんは この“はやぶさ君”のことを一生忘れないでしょう 小学生時代というのは 毎日毎日が人生で最も大切な時間である可能性が高いのですから…科学が持つ意味というものを 今 改めて噛み締めています(的川泰宣/日本の宇宙工学者 日本初の人工衛星 おおすみのプロジェクトマネージャーだった方)
「松下村塾」はとくに優れた人材が集って あれだけの指導者を輩出したのではないと思う 国の行方に危機感を持ち 個性の違う若い同志が 縁あって出会った尊敬し合う師 吉田松陰を中心に相集い 真剣に悩み考え 志を確かめ合い 支え合って 将来の日本の方向と形を求め合う集団をつくり得た人々が その過程で安定した精神的基盤と自己の中核を自らの中につくり上げ これが自信と充足感となり 後に指導力となって現れたのではないか(篠田雄二郎談/1964/上智大学教授/元経済同友会代表幹事 木川田一隆氏顧問/私の職業人としての基礎形成期に掛け替えのないご指導をいただいた方)
どこへ行くのかわからなくなったとき 自分がどこから来たのかを知りたくなる 日本人全体が 今 そんな道中にさしかかっているのかもしれない(深代惇郎)
馬車よ そんなに急いでどこへ行くのか(東山魁夷)
最近厭われる街路樹の落ち葉 子供たちの歓声 梵鐘の音
(求められている)本質的で深い 人間の根元に届くメッセージ(武満徹/音楽家)
われわれは 次の世代に何を引き継ごうとしているのか


《主要引用文献》

入交昭一郎「FMTアーカイブ 第3巻 片山豊氏との対談」(新経営研究会)

和田昭允「FMTアーカイブ 第18巻 世界における日本の独創性と可能性」(新経営研究会)

時実利彦「人間であること」(岩波新書)

David Eli Lilienthal「リリエンソール日記」(みすず書房)

高見 順「死の淵より|過去の空間|」(講談社)

深代惇郎「天声人語|汚染魚」(朝日新聞 1973.6.10)

高尾亮一「イノベーションフォーラム」、「FMTアーカイブ 第7巻 新宮殿をつくる」(新経営研究会)

志村ふくみ「イノベーションフォーラム」、「一色一生」(求龍堂)

多田道太郎「多田道太郎著作集︱日本の美意識」(筑摩書房)

鈴木一義「新経営研究会発足25周年記念大会(2007年)基調講演」

川喜田二郎「パーティー学」(社会思想社 現代教養文庫)

池波正太郎「よい匂いのする一夜(平凡社)

溝呂木義郎 指物師「続 職人衆昔話」(文芸春秋社)

横山吉次郎 塗師「続 職人衆昔話」(文芸春秋社)

Rabindranath Tagore「タゴール著作集 第8巻 P482 日本の精神 (高良とみ訳)」(第三文明社)

榮久庵憲司「幕の内弁当の美学」(ごま書房)、「新経営研究会発足25周年記念大会(2007年)基調講演」

安達以乍牟「イノベーションフォーラム」、「FMTアーカイブ 第14巻 越前生漉奉書」(新経営研究会)

小林秀雄「芸術随想︱美を求める心」(新潮社)

赤尾英慶 京都博物館 文化財保存修理所所長 「異業種・独自企業研究会」新経営研究会」

西岡常一「異業種・独自企業研究会」、「FMTアーカイブ 第7巻 飛鳥・白鳳の工人の魂と知恵」(新経営研究会)

Alfred P Sloan Jr「GMとともに」(ダイアモンド社)

片山 豊「FMTアーカイブ 第3巻 Love Cars, Love People, Love Life」(新経営研究会)

木原 明「FMTアーカイブ 第16巻 日本のものづくりの原点 たたら製鉄」(新経営研究会)

松尾芭蕉「花垣神社(伊賀市予野) 句碑」

黒滝哲也「FMTアーカイブ 第16巻 日本のモノづくりの原点 “たたら製鉄” の精神」(新経営研究会)

武満 徹「時間の園丁」「音楽を呼びさますもの」(新潮社)

外村 彰 「イノベーションフォーラム」「異業種・独自企業研究会」合同例会 新経営研究会

桑田芳郎「FMTアーカイブ 第9巻 鉄道発祥の地 英国で日本が受注した高速鉄道 “海外に飛翔する日本の鉄道技術”」(新経営研究会)

東山魁夷「馬車よ、ゆっくり走れ」(新潮社)

本川達雄「イノベーションフォーラム」、ゾウの時間 ネズミの時間」(中公新書)

的川泰宣「FMTアーカイブ 第2巻 はやぶさ帰還秘話 - 幼い子供達の感動が未来を創る」(新経営研究会)

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