第1章

日本が提唱 主導した

ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム

東京大学 名誉教授 和田昭允氏 1994年6月16日


和田昭允氏
はじめに

ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラムの概要

 予算規模とその内容

 本部の設置と組織メンバ

 何故ストラスブルグか

 プログラムが掲げている3つの重点目標

 アメリカの干渉

 支援した二つの学際分野

 グラント応募への研究評

 エバリュエーションをしっかりさせることが大

 日本の研究レベルの高さにも拘わらず、少ない日本で研究を希望する海外研究者

 国際舞台から取り残される日本


ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム実現の経緯

 通産・科技庁支援と中曽根首相主導でサミット参加7国へ呼びかけ

 日本で噴出した様々な事情と矛盾

 国際舞台から取り残され

ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム実現の経緯

 通産・科技庁支援と中曽根首相主導でサミット参加7国へ呼びかけ

 日本で噴出した様々な事情と矛盾

 立ちはだかったアメリカの反対

  このときに生まれた、プログラムの基本哲学「学際性と国際性」

  アメリカにあった日本への大きな不信感

 Sir John Kendrewから寄せられた心溢れるサポート


日本のオリジナリティーをもっと世界にアピールせよ
科学と技術の境を外し、生命と人間の解明へ向かう
ハイテクと異分野融合による基礎研究の振興が日本の進路
日本の可能性の芽を摘まないように

東大理学部物理学教室 教授・助教授 1963年 前列向かって左から植村泰忠、木原太郎、今井功、小穴純、小谷正雄、平田森三、宮本梧楼、野上耀三、西川哲治、後列向かって左から有馬朗人、飯田修一、森永晴彦、宮沢弘成、桑原五郎、小柴昌俊、平河浩正、和田昭允、後藤英一

Q&A

空前でも絶後にしたくない壮大な構想

アメリカの「日本の基礎研究ただ乗り論」は、傷つけられたアメリカの自尊心の現れ?

日本での海外研究者の増大は、自由な雰囲気を持つ新しい組織づくりがカギ

東大工学部は、元を正せば世界初の斬新だった学部

昔は規制も決まりも殆どなく、理想追求の下で自由裁量の高かった大学

日本の学問は東低西高? 東京は学問の首都ではない

海外の若い研究者に日本での研究に魅力を感じさせない日本の研究支援組織

招かれて名誉と受け取られる前任者の人選が命

戦前、日本にあったといわれる矜持が、今、消えてしまったのではないか

異質の世界で、個性を競い合えることの重要

古いものを建て直す努力より、新しいものを生み出すチャレンジ

緊張感溢れる自律集団

日本の大学も、民間企業がもっと入り込める制度をつくれないか

研究と教育は、同じ人間が当る必要があるのか

大学教育で必要なのは、学問的雰囲気

学問に対する情熱・核となることを伝えるのが大学・大学院での本来の教育



第2章

日本発・世界初

細胞シートによる再生医療創出への挑戦・今後のビジョン

東京女子医科大学 教授 先端生命医科学研究所長 岡野光夫氏 2012年9月4日


岡野光夫氏
はじめに

細胞でつくった世界地図からの発想

インテリジェント高分子を構想

情報が載ったサイエンスの重要性

温度で制御可能な高分子に着目

高分子の構造制御が開くドラッグデリバリーへの更なる可能性

新型クロマトグラフィー技術創出の可能性

増殖細胞の剥離研究を始める

発見、20ナノ以下の超薄膜上で温度変化のみで細胞が剥がれる

見えて来た人工臓器の実現

ー20℃への温度変化で実現した細胞膜無破壊での細胞剥離ー

情報が載ったサイエンスの重要性


細胞シートによる再生医療へ

細胞シートから生み出す心筋細胞組織

これまでなかった、組織を壊さず剥がして他所へ移す技術の開発

  細胞シートの中で血管同士が繋がる画期的技術を開発

  ー短時間で厚い組織をつくるー

移植先組織の血管とつながる血管内蔵の画期的細胞シートの開発

臓器丸ごとの移植から、臓器機能の一部を回復させる再生医療の開始


今日の再生医療の最先端

今日の再生医療の最先端

 世界で注目を浴びた、細胞シートによる “角膜再生治療”

肝臓と膵臓機能の再生

岡野光夫氏

 糖尿病

 血友病

心臓病

 重症心不全と心筋梗塞

 心臓治療Ⅱ

食道癌

 膝関節軟骨

 歯

 耳

 肺への挑戦


今後の課題

 求められている産学連携と医工連携

 カロリンスカ大学との連携

 先端生命医科学センター(TWIns)の創設

 ー始まっている組織医薬と根本治療の時代ー


最後に

今後、海外での活動も目に入れて

全自動システムへの挑戦も考慮に入れて

F1カーメーカーから、ユニクロ型再生医療を目指して

終章今後の日本の新しい医学の創出・発展のために


Q&A

何層も積み上げていく細胞シートで、血管が上手く繋がっていく不思議

この細胞シートには寿命はあるか

培養細胞を温度コントロールで剥がしたというのは凄いこと!

「温度感受性表面の創造が現在につながった」 とは大変な発明!

3D印刷のように細胞の3次元組立は出来ないか

世界初の手術への挑戦で、リスク極小化への努力はどうであったか

岡野先生の歩んで来られた道、プロファイルをもう一度…

 生まれは高分子、一番興味を持った免疫という生体

 バイオマテリアル研究との出会いとスタート

 決定的に重要な機会となったユタ大学留学

 日本の医学の未来に感じた「赤ひげの限界」

 目標の下、グローバルな活動の中で出会う仲間たちの大切さ

 1を10、100にする仕事より、0から1を生み出す仕事が重要

 志を持ち、チャレンジングな人たちが集まって来ることの重要さ

時代遅れの束縛だらけの日本から、広い世界へ飛び出して活躍されては…

もう少し、日本の中で挑戦してみたい


未来を切り拓く研究者へ

ー 補 遺 ー

第3章

随想随感

ー全巻完行の辞に代えてー

新経営研究会 代表 松尾隆氏 2016年9月10日


松尾 隆氏
 これは弊会会報(季刊 1991年10月 第1号発刊。現在休刊中)の「巻頭言」として掲載してきた私の徒然の思い、私の心の奥深くに沈み、常に核心的啓示となって甦り、胸深く刻まれた先人・その道の達人からいただいた金言玉句を綴らせていただき、毎号掲載させていただいていたものの断片である。
 極めて拙い、雑然とした思いであるが、その思いは今も変わらず、新経営研究会発足の原点、今日に至る活動の精神的基盤、原動力ともなって来たものの断片である。この度、弊会が発足30周年記念叢書を発刊させていただくに当り、面映い限りではあるが、改めてご紹介させていただくことにしたものである。(2016年9月 新経営研究会 代表 松尾隆)



愛 感動 夢 未来 希望 志 可能性
全てを動かし変えるのは愛 そして夢 確固とした意思 情熱 覚悟 誠意
創造と破壊 そして他を抹殺しても生き延びたいという殺し屋の血を滾らせ 一方で生き甲斐と仲間なしでは生きていけないという 矛盾撞着した心を同根に持つのが 人間が人間である姿 人間のあるべき姿を論じる前に 人間である姿を理解していないと 空論になる(時実利彦)
人間は現在の瞬間にではなく 明日という未来と希望の中に生きている(時実利彦)
手ですくった砂が 痩せ細った指の隙間から洩れるように 時間がざらざらと私からこぼれる 残り少ない大事な時間が(高見順)
悩み 苦しむということが 人間が人間であることの証なのだという
人を殺すに刃物はいらぬ 打ち込む対象を取り上げ 本人が無意味と思うことをやらせ続け 村八分にし 最後に一切の情報を断てばよい この逆をやっているのが名リーダーと言われている人たちなのだ
毛筋一筋 紙一重の違いが 実は天地の隔たり
全体を一つの思想 美意識で貫く‼︎
徹底出来るか出来ないか そこが全ての決め手
カシミールの織物がどんなに美しいからといって われわれが高度の技術を駆使して どんなに精巧に再現して織ったところで 所詮模倣にしかならないのです それはそのものの生まれた背景と人の心が結びついて美しいものになったのです とうてい歯の立つものにはならないのです(志村ふくみ)
美と伝統に鋳型はない(出典忘失)
遠い記憶を呼び起こす この無性の懐かしさ 心の安らぎ 魂の震えは何処から来るのか…〈おわら風の盆にて〉
伝統は 人の心に引き継がれて行く(池波正太郎)
美と個性と伝統 それは現わすものでなく 現われて来るものだ
オールドローズは周囲に溶け込んで咲き 現代の薔薇の多くは周囲に際立って咲く 私はいずれも美しいと思う
技術 製品 モノの背後にある それを生み出した文化固有の美意識と価値観 サイエンスというものも同じ文化的所産の一つなのかもしれない
われを忘れているとき 個性が現われる(川喜田二郎)
木組みは寸法で組まず 木の癖で組め(西岡家に伝わる法隆寺宮大工口伝)
法隆寺・薬師寺宮大工棟梁 西岡常一氏と内弟子 小川三夫氏
(三重塔を背景に再建なった薬師寺金堂で 1979年頃 小川三夫氏提供)

日本は美の中に真理を 真理の中に美を見抜く視覚を発展させて来た そのことを あなた方日本人に再び思い起こさせることは 私のような外来者の責任であると思います 日本は明確で 完全な何ものかを樹立して来たのです(中略)それは紛れもなく全人類にとって貴重なものです それは 多くの民族の中で日本だけが 単なる適応の力からではなく その内面の魂の底から生み出して来たものなのです(Rabindranath Tagore)
すべての民族は その民族自身を世界に現はす義務を持っています 何も現はさないといふことは民族的な罪悪と言ってよく 死よりも悪いことで 人類の歴史において許されないことです(岡倉天心:1901年:民族の誇りと自信を失いかけていた当時のベンガルの若い世代の精神に、渾身の思いを籠めて天心が訴えた言葉として、タゴールが初来日の折、日本の若い世代に紹介した言葉 “タゴール著作集第8巻P480” )
われわれの核となるものは 各々の民族が各々の歴史と風土の中で培い 発展させて来た 今われわれの内にある この精神と美意識 感覚をおいてない
人間には 大まかに言って 先ず完結した 確固とした到達目標 グランドデザインを定め そのブレークダウンという手順でデザインを完成させていく行き方(梅棹忠夫)と 桂離宮のように 最初描いた絵の上に折々の思いを重ね 修正を加えながら ある姿に辿り着いて行く このような 2つの行き方があるように思う 私は どちらが優れているとは言えないと思う
日々変わり 今日のものは明日はない
優れた和紙は 歳とともに 品格と風格を増し 美しく老いていく(安達以乍牟)
刹那に生きることを強いられた 今日の “モノ” たちの悲哀と素顔
ものに映る つくり手の精神と内面の魂 手先 息づかい
自然に咲く花は美しい 枯れかかっても深いものを感じる それが造花にない それが生命だというが 不思議だ
考えてみれば 路傍の石も 山肌に見えるあの岩も美しい 石や岩にも生命があるのだろうか
美を求める心は 誰にでもあります ただこの能力が 私たちにとってどんなに貴重な能力であるか この能力は養い育てていかなければ衰弱してしまうことを知っている人は 少ないのです (小林秀雄)
本当のものは見えるものの奥にあって 物や形にとどめておくことの出来ない領域のものなのでしょう(志村ふくみ)
生き生きとした…、瑞々しい…、これらは“いのち”が解き放たれて 自由に躍動している様か…
欧米では不良品とされるものが 日本では高く評価されることがある 非合理 非論理的なものが入ってはじめて命が入ったように見える(栄久庵憲司)
千数百年に亘り「たたら製鉄」では伐採した森林を40年サイクルで再生させて来た この基本思想は曾ては日本のモノづくり全般に 通奏低音のように流れていたのです(黒滝哲也)
たたら製鉄の村下にとって不可欠なのは火を見る「感性」 炉内反応変化の全ては火と音に現れる(木原明)

 
〈左〉小野田雪堂師 書画〈右〉たたら製鉄操業現場

尺八など 日本の伝統楽器に「さわり」という奏法がある 「雑音」と取られかねない音である 楽譜には表せない しかし ここに日本の楽音の“いのち” 本質が現れているように私は思う
地球にやさしい? 何と身の程を知らない 軽い言葉だろう
持ち運べる音 持ち運べない音(武満徹)
普遍性 効率化 経済合理性の追求が いつか切り捨て 振るい落として来たものの大きさ…
人間の知恵というものが もっと自然の生命を憶い 怖れるところから生み出され もっと自然と人の生命が輝く方向に 使っていけないものか
1を10、100にする仕事はとても大切 0から1を生み出す仕事は更に大切(岡光夫他)
この世界最高解像度を持つ「1MVホログラフィー電子顕微鏡」は この電子銃 電子レンズも全て 日本の現代の匠の方々なくしては実現していなかったのです(外村彰/新経営研究会主催「異業種・独自企業研究会」「イノベーションフォーラム」合同例会)
「すばる望遠鏡」の主鏡は驚異的限界精度に近い研削加工で作られていて これを磨くとレンズに瑕がつくのだという このような超がつく技術 技能を持つ中小 中堅企業が日本には多いのだが…
送り手の熱い思いから生み出されたものでなく 目先の競争と差別化が目的で生まれて来た技術 製品がどうして人々の心を打ち そこに携わる人々の心を結集して行けるだろうか
「いのち」あるものを感じられず 背後にそれを生み出して来た人々の熱い思い ひたむきさ 精神性を感じられないものを生み出し 囲まれつづけると 人はいつかそれに慣れて 心を荒廃してしまう
他の動物から今の人間を見たら きっとみんな 出目金のように見えるのではないか 余りに周りに氣を取られ 目ばかり飛び出させて キョロキョロしている
企業の命とは企業規模の大小 ビジネスの如何を問わず それは企業が持つ夢と精神 この企業 或いはこの組織をこうあらしめたいと願うトップの強烈な欲求 その実現への揺るぎない意思である 技術・製品・事業・企業文化というものも この初めにある企業の そしてそこに携わる人々の夢と精神 志の結晶に他ならない
如何なる事業を経営するにも その産業について独自の定見が不可欠である 同じ産業に属すると見られる企業の間に その産業についての考え方に違いがあれば それは最も強力 かつ決定的な形で 相互の競争力として現れる傾向にある(Alfred P Sloan Jr)
ブランドとは 伝統と誇りと信用の象徴(フェアレディZの生みの親・片山豊)
理論でマネジメント知識を身につけても 百害あって一利なし!!
理解の理は大理石の理 理髪店の理 筋道をたてて解することが理解 しかし全てを筋道を立て 理解 説明出来るとは限らないのが 現実の生きた世界!
貴方に好きな人がいるとして どれだけ理解していますか? 理解しなければ愛せないのですか?
「理解する」と「打たれる」「悟る」は異次元の世界
Here lies one who knew how to get around him men who were cleverer than himself
己より優れた者に囲まれ 共に成すことの出来る術(すべ)を知れる者 ここに眠る(カーネギー墓碑)
最近 何故みんな 「自分の目の黒い内に…」 とばかり考えるようになってしまったのだろう
最近あまり見られなくなった 壮大なイマジネーションと悠久への眼差し ‼︎
天の川銀河
世代を超えて 世代を重ねて…
利害 得失による判断は当然だが 美意識による判断 決断もあっていいのではないか
最近 厭われる街路樹の落ち葉 子供たちの歓声 梵鐘の音
われわれは 次の世代に 何を引き継ごうとしているのか
※ ()内は出典 他は松尾隆自身の思い

《主要引用文献》

時実利彦「人間であること」(岩波新書)

高見順「死の淵より|過去の空間|」(講談社)

志村ふくみ「一色一生」(求龍堂)他

池波正太郎「良い匂いのする一夜-西日本編-」(平凡社)他

川喜田二郎「パーティー学」(現代教養文庫)他

Rabindranath Tagore「タゴール著作集 第8巻 日本の精神」(第三文明社)

岡倉天心「タゴール著作集 第8巻 P480」(第三文明社)

安達以乍牟「FMTアーカイブ 第14巻 越前生漉奉書」(新経営研究会)

小林秀雄「芸術随想︱美を求める心」(新潮社)他

西岡常一「斑鳩の匠 宮大工三代」(徳間書店)、「飛鳥・白鳳の工人の魂と知恵」(新経営研究会 FMTアーカイブ7)

榮久庵憲司「幕の内弁当の美学」(ごま書房)、「ものと日本人」(東京書籍)他

Alfred P Sloan Jr「GMとともに」(ダイアモンド社)

片山豊「FMTアーカイブ3 Love Cars, Love People, Love Life」(新経営研究会)

黒滝哲也「FMTアーカイブ 第16巻 古代から続く日本独自の製鉄法 “たたら製鉄” の技と精神」(新経営研究会)

木原 明「日本のものづくりの原点 たたら製鉄 FMTアーカイブ16」(新経営研究会)

武満徹「時間の園丁」「音楽を呼びさますもの」(新潮社)他

岡野光夫「FMTアーカイブ 第18巻 細胞シートによる再生医療創出への挑戦・今後のビジョン」(新経営研究会)

外村彰 新経営研究会主催「イノベーションフォーラム」「異業種・独自企業研究会」合同例会で

片山豊「FMTアーカイブ3 Love Cars, Love People, Love Life」(新経営研究会)

ページトップ