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本田の航空機事業進出、次世代技術のリーダーシップに関わる日本の課題

2007第年度前期「21世紀フォーラム」
第1回 : 2007年3月22日(木)
講  師:(株)本田技術研究所 主席顧問・前専務取締役 荒木 純一 氏
コーディネーター:LCA大学院大学 副学長 森谷正規氏

 ホンダがいよいよ航空機事業に参入する。
 6-7人乗りのビジネスジェットを開発して、2010年に発売するのだが、性能に優れていて経済性が良く、米国市場で非常に好評であり、すでに100機以上を受注している。
 ホンダはこの航空機を20年かけて開発して来て新しい事業を開始するのだが、2007第年度前期「21世紀フォーラム」の第1回例会で、その開発と事業化への壮絶な闘いを本田技術研究所の主席顧問を務める荒木純一氏から伺った。荒木氏は、ホンダがこの航空機事業化のために米国に設立したHonda Aero,Inc.の初代社長である。
 ホンダが航空機の開発に本格的に着手したのは1986年、和光基礎技術研究センターにおいてであった。当初、機体は米国のミシシッピ大学と提携して開発・設計し、エンジンはホンダが独自に小型のターボファンエンジンを開発した。機体もエンジンも自社で開発しようというのが、他社がやらないことをやるというホンダらしさである。大型旅客機から中小型機、軽飛行機まで、機体とエンジンは別の会社が開発、生産するというのが、航空機界の通例であるが、ホンダは敢えてそれを破ることに挑戦したのである。 
 航空機の開発には、多大の人員と膨大な費用と長い期間を必要とする。ホンダは金と人をかけて開発を着々と進めてきたが、続行のか出来るかどうか、危機に遭遇することもあった。それは、1990年代に入って乗用車市場が急速に悪化して、ホンダは利益が急減してゼロに近くなったからである。利益を上げるためにはあらゆる面での経費削減をしなければならず、巨額の費用を要するF1への参加も取り止めることになった。当然ながら基礎技術研究も縮小せざるをえなかったが、航空機開発と、もう一つの基礎的な開発の目玉である二足歩行ロボットは、経営トップの決断で継続することになった。その経緯を荒木氏は詳しく語ったが、トップの独自技術開発への強烈な意志と開発部門の革新技術に賭ける熱情が結び付いての決断であった。ロボットASIMOとビジネスジェットはいま、自動車メーカーを越えるホンダの企業イメージを際立たせるものになっているが、F1を止めても基礎技術研究は続けるというホンダの開発スピリットのシンボルである。
   ホンダジェットには多くのユニークな特長があるが、その最大のものは、主翼の上部にエンジンが搭載されていることである。これは、航空機の常識では空気抵抗を増やす不利が大きいとしてありえないことであった。だが、航空機に新たに挑戦するホンダの技術者は、そのような常識には頓着しない。極めて重要なエンジン配置にさまざまなアイデアを出して、風洞実験をしていて、エンジンを主翼のある位置に載せると抵抗が意外に少なくなることを発見したのである、しかも、エンジンを機体から離すことによって、室内空間を広く取ることができた。この常識破りによって、ホンダジェットは燃料消費が少なくなり、経済性に優れたものになっている。荒木氏の話によると、この翼上エンジンの是非を米国の航空機の専門家に問うてみると、大半は否定的であったが、ユーザー側は見慣れない機体をまったく問題にしなかったという。専門家がとかく狭量で近視眼的に陥りやすいという事実を明らかにしてくれる。
 こうして技術開発は素晴らしかったが、航空機の事業化は容易ではない。その苦闘を荒木氏は語った。最大のものは、安全性が極めて重要である航空機には、あらゆる面での認可が必要になることだ。トラブルが生じると墜落つまり死亡事故につながりかねないので当然であり、乗用車とは大きく異なっている。ホンダは、ホンダジェットの生産をできれば日本で行いたかったのだが、それは不可能であった。多種の部品、部材を調達しないといけないが、米国での認可を取得していないと、採用するわけにはいかないのだ。残念ながら日本には航空機市場が育ってなく、非常に膨大な労力を要する認可を取ろうという企業が日本にはほどんどいないのである。やむなくホンダジェットは米国での生産になるのだが、国産で最初のジェット旅客機の開発が始まっていることでもあり、数多くの部品、部材メーカーが航空機産業へ参入してくれるよう、荒木氏は切望していた。航空機の分野で日本に生まれた画期的に優れた技術開発を、日本の産業全体の資産にしていきたいものである。 採用するわけにはいかないのだ。残念ながら日本には航空機市場が育ってなく、非常に膨大な労力を要する認可を取ろうという企業が日本にはほどんどいないのである。やむなくホンダジェットは米国での生産になるのだが、国産で最初のジェット旅客機の開発が始まっていることでもあり、数多くの部品、部材メーカーが航空機産業へ参入してくれるよう、荒木氏は切望していた。航空機の分野で日本に生まれた画期的に優れた技術開発を、日本の産業全体の資産にしていきたいものである。

(21世紀フォーラム:森谷正規)

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