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資生堂の改革、メガブランドの育成

と き :2007年9月3日
会 場 :全国町村会館
ご講演 :(株)資生堂 代表取締役社長 前田新造氏
コーディネーター:LCA大学院大学 副学長 森谷正規氏
 

 21世紀フォーラム2007年度前期例会の最終回では、資生堂の前田新造社長から「抜本的な構造改革とメガブランドの育成」というテーマでお話を戴いた。
まず改革前の資生堂の経営状況について話を始められたが、外部からはうかがえないかなりの苦難の状況にあったようだ。化粧品の外資系メーカー、国内の通信販売メーカーが大きく伸びる中で、資生堂の収益はほとんど伸びず、何とかして売上高を伸ばそうと次々と新製品を開発して市場に出すのだが、どれも小手先の戦略であり、成果は上がらなかった。従来からのビジネスモデルが時代に合わなくなってきたのだが、それを変えていく思い切った決断ができない。利益を確保するために新規採用を減らしたのだが、中堅層が増え過ぎて人件費が高騰し、また広告宣伝費を半減して売上は不振になり、ますます悪化していくことになった。
 一方で世間からは長い歴史がある資生堂は高く評価されており、ブランド価値は1兆2900億円といわれた。だが、株式の時価総額は当時は6220億円に過ぎず、外国資本によって買収されかねないTOBのリスクを背負う状態であった。
 そこで経営改革のために、前田さんが社長に抜擢されて、大胆な改革に踏み切った。まず行ったのは、三つの夢を掲げることである。それは次のようなものであった。

  •  100%お客様志向の会社に生まれ変わること
  •  大切な経営資源であるブランドを磨き直すこと
  •  “魅力ある人”で組織を埋め尽くすこと

 

 ブランドに関しては、小粒化してしまったブランドを見直すことに力を注いだ。次々に新製品を出した結果として非常に多くのブランドが生まれていて、一つのブランドへの広告費が小さくなってしまっていた。。そこでカテゴリー別に一つのブランドに絞り、全体で八つにまとめてそれを全面的に打ち出すことにした。つまりメガブランドであるが、その効果は直ちに出て、それぞれのカテゴリーで売上高は一位か二位に急上昇した。また、もともと資生堂のテレビCMの質は高かったのだが、メガブランドのCMは次々にグランプリを受賞した。ビデオでそれを見せて戴いたが、確かに洗練されていて素晴らしい。
   100%お客様志向のためには、販売の現場の大改革を行った。美容員が売上の獲得にしばられていたのを改めて、ビューティコンサルタントである本質に返って、お客様を美しくする事に徹するために、カウンセリングに全力を尽くすよう命じたのである。しかも、売上高が成績評価の基準であったのを止めて、売上高では評価しないと宣言したのである。前田さんは現場を回って美容員を集めてそれを直接伝えたが、大きな拍手が出たという。役員の中には売上高の減少を危惧して反対する向きもあったが、意に介さずに実行した。
   お客様志向は、どの会社でも掲げるものであって、100%の形容詞も簡単につけられる。だが資生堂が違っていたのは、それを100%実行したことである。

   こうして資生堂の売上高は落ちることなく着実に増えて、実績が上がって資生堂の株価は上昇して時価総額は1兆円を越えた。
 さらにいま、“魅力ある人”で組織を埋め尽くすことに力を注いでいる。それぞれの職場から「仕事の面白さに目覚めた人」をつくりだそうと、さまざまな制度を始めている。その一つが「カンガルースタッフ制」であり、育児時間がとりにくい美容職社員の代替要員を確保するものだ。
 お客様に向けて「一瞬も一生も美しく」と訴えるのが、資生堂が掲げるコーポレートメッセージであるが、それに向けて全社員がひたすら努力をするようになったのが、改革の大きな成果である。
   経営改革は人である、人を変えることであるというのを痛感したのだが、その改革の根本は、まさしく経営トップの決断と実行である。

(森谷正規)

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