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フェラーリチーフデザイナとして活動したものづくり-今日の夢と挑戦

と き :2007年9月26日
会 場 :全国町村会館
ご講演 :CEO KEN OKUYAMA DESIGN 奥山清行氏
コーディネーター:LCA大学院大学 副学長 森谷正規氏

 21世紀フォーラム、2007年度後期の第一回は、奥山清行さんの「フェラーリチーフデザイナーとして見た“ものづくり”、そして明日への夢と挑戦」であった。奥山さんは、GMとポルシェでチーフデザイナーを務めた後、イタリアのカロッツェリアであるピニンファリーナに移ってデザイン・ディレクターを務めていて、あの「エンツォ・フェラーリ」をデザインしたことで著名である。いまは帰国して、故郷の山形県で「山形工房」を設けて、木工家具や鋳物のものづくりを指導しており、その製品は海外で評価を高めている。奥村さんはこの8月に「伝統の逆襲-日本の技が世界ブランドになる日」(祥伝社)という著書を出版しているが、日本が進む新たなものづくりに大きな示唆を与える良い本であり、私は毎日新聞で書評に取り上げた。
奥山さんはまず、イタリアではいかにものづくりをしているのか、それをフェラーリを通して詳しく語った。フェラーリが創業55周年を記念して製造した「エンツォ・フェラーリ」は、7500万円もする超高級車であるが、349台の生産に限定した。フェラーリは車を需要より1台少なくつくることにしており、需要を350台と見込んだのだ。ところが、世界中で大評判になって、申し込みが殺到した。フェラーリは半額の申し込み金を取ったが、それでも申し込みは生産台数をはるかに越えた。そこで、過去の購買実績、所有している車などをもとにしてランクをつくって、上位の者から売ることにしたのである。このような販売がありうるとは、驚きである。
 なぜ、フェラーリはこのように非常に高い人気があるのか。それは、顧客がフェラーリの過去を買っているからだという。フェラーリの顧客には事業に成功した大金持ちが多いのだが、いまではふんだんにお金があって、何でも買うことができる。ただ買えないのが過去であるが、フェラーリは過去においてF1を中心にしたさまざまな伝統があって非常に大きい蓄積があっていまに至っているのであり、そのフェラーリを買うことは、過去を買うことになるのだという。高度な工業製品は未来の匂いがするものなのだが、こうした特別な製品は、過去を背負っているのである。過去を買うと言うのはとてもユニークな視点であり、今後の高級製品のありかたに示唆を与える。
   ピニンファリーナがフェラーリから「エンツォ・フェラーリ」を受注する経緯も詳しく語った。それはとてもドラマティックなものであった。いろいろとデザインしたがフェラーリの社長の承認がどうにも得られず、いよいよ最後となってもOKが出ず、社長は帰ろうとして乗ってきたヘリコプターのエンジンをスタートさせた。だが、サンドイッチでもどうぞと引き留めて、奥村さんはその間の15分の間に新たなデザインを描いて、社長に見せて、ついに承認を得ることができた。発注者とデザイナーの間で、両者のきわめて鋭い感覚が一瞬の接点を生んだのだろう。
   これは、発注者とデザイナーの間の重要なコミュニケーションであるが、奥村さんはデザイナーは関連する多くの人たちとの間でのコミュニケーションを密にしなければならないと言う。開発部門、生産部門、販売部門、顧客などとの間での広く深いコミュニケーションがあってこそ、良い製品が生まれるのである。さらにデザイナーにとって仕事でまず必要であるのは、コンセプトづくりであると言う。この点は著書でも力説している。一般には、デザイナーは外見をかっこ良くする仕事と思われがちであるが、製品のコンセプトづくりからスタートするのであり、それが製品を大きく左右する。デザイナーは、コンセプト、デザイン、コミュニケーションにそれぞれ3分の1の力を配分するのだと言う。
   イタリアに優れたブランドが多いのはなぜか、その由縁も語ったが、ブランドは顧客が育てるものだと言う。イタリアでは、庶民は所得は多くはなく、生活はとても地味だが、少ないお金を有効に使おうと懸命に努力する。そこで、物をただ買うのではなく、製品として厳しい目で見て、口を出していろいろと注文をつけるのである。それに応えることで製品は洗練されて、ブランドとして育っていく。一方日本では、大企業の製品であればみなが信用して、何も言わずに買ってしまう。それはよろしくないのである。

 これからのものづくりについては、農耕型であるべきと説いた。これまでのように技術をネタにして何かを探そうと努力しても、今の時代では良いものは見つからない。そこで、これから何が求められるのかを探って、タネを植えるというのである。あるいは、デザイナーはシェフであるべきだとも言う。供する料理のメニューを自らつくるのである。それがコンセプトをつくることにもなる。
アメリカ、イタリアで素晴らしい業績を上げた奥村さんの話しは、やはり凄みがあって、みなが聞き入った。新しいものづくりを大いに考えさせられる一時であった。

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