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アイシングループの商品変遷とそれを支える‘ものづくり’

と   き : 2007年12月11日
訪 問 先 : アイシン精機(株)本社工場 訪問
講   師 : 取締役 副社長  林  稔氏
コーディネーター:  相馬和彦氏(元帝人(株)取締役 研究部門長)

 平成19年度12月に開催された第五回は、愛知県刈谷市にあるアイシン精機本社工場を訪問した。アイシン精機はトランスミッション、ブレーキ、ボディなどの主要な自動車部品製造で有名であるが、同時にハイエンド向きのスピーカーや高級ベッドなどもグループ内で製造しており、多様な製品群を生み出した企業文化に大いに関心が持たれた。
開催に当たり、最初に山内康仁代表取締役社長より歓迎の挨拶があり、引き続きコムセンターおよびブレーキ部品工場の見学に移った。コムセンターにはアイシン精機の歴史および主要な製品群が展示されていて、企業活動全般をまず知ることが出来るよう配慮されていた。1943年に航空機用発動機を製作するため、東海飛行機株式会社が設立されたのがアイシン精機の出発であるが、戦後を迎えて航空機用発動機からミシンや自動車部品生産に転換し、1949年には愛知工業株式会社となった。この愛知工業株式会社と新川工業株式会社が合併し、1965年にアイシン精機が設立された。こういう会社の設立とその後の発展過程において多くの関連企業が生まれたたことが、現在のアイシングループの多様な製品群と企業文化に影響していることは、その後の見学や講演の中で具体的に示された。
アイシン精機の主要製品はボディ関連(2006年の売上比率38.7%)、ドライブトレイン関連(同18.0%)、ブレーキおよびシャシー関連(同17.2%)、エンジン関連(同15.1%)である。住生活関連(同5.2%)ではフィット感の高いベッド、福祉関連では介護用別途や軽量電動車椅子などを販売している。また新規事業としては、超伝導モーター、フェムト秒ファイバーレーザー、遺伝子検出同定システムなどを手掛けている。
次いで関連会社であるアイシン高丘で製造している高級スピーカー“TAOC”ブランドのFC5000を試聴した。ジャズとオーケストラの演奏を短時間聴いた範囲では、音の立ち上がりと切れが良いという印象を得た。スピーカーは1983年に発売されたが、元々は制振鋳物として開発されたハイカーボン鋳鉄を、フレームからスピーカー本体へと進化させたものである。国内および海外で音響関連の賞を得ていることを納得させる音質であった。
工場見学ではブレーキ部品の製造および組み立て工程を見学したが、現場に足を踏み入れた第一印象は、工場の床が実に綺麗に掃除されており、また数多くの部品や仕掛品がキチンと整理・整頓されていることであった。1997年に火災で工場停止を経験したことがあり、そのため周辺環境と火災への配慮がなされている。工場内には72度Cで稼動する自動シャッターが装備され、初期消火訓練を3~4ヶ月に一回は実施している。本工場では様々なブレーキ関連製品が作られているが、ブレーキ・マスター・シリンダー(BMC)は32.6万個/月、キャリパーは32.2万個/月、パーキング・ブレーキ(PKB)は28.2万個/月生産されている。
二階では切削・鋳造工程を行っているが、自動化は意図的に80%程度に止め、作業者の訓練のために手動工程を残している。鋳造品の検査には、レーザーによる自動検査工程を採用したが、その結果生産性指数は100から160に向上し、不良品の後工程への流失指数は100からゼロへと減少した。また切削・研磨工程は合理化および内製化を積極的に実施しており、特に工具・工程の改良に力を入れている。改良した切削工具を見せてもらったが、溝のついた中空部分を削り出すための自社製中繰り刃具に、削り屑がうまく排出されるような工夫がされていることに感心した。
またアルミ鋳造工程では、工程解析の結果により、鋳造機が75%の時間はアイドリングしていることを見つけ、鋳型を連続的に回すことを含めて鋳造工程全体を見直すことにより、設備数を47台から13台に、作業者を3名から1名へと大幅な合理化を達成した。同行していた林常勤監査役のコメントでは、技術屋と現場が一体となった共同作業で達成出来たとのことであり、日本の製造業が最も強い現場・現物重視の好例を拝見出来た。
コムセンターの講演会場に戻り、林稔常勤監査役(前取締役 副社長)より「アイシングループの商品変遷とそれを支えるものづくり」と題する講演をいただいた。
アイシン精機はトヨタ自動車を中心とするトヨタグループ15社に含まれ、トヨタ向けの売上が連結で70%と高い。06年度でアイシン精機単独での売上は8,600億円、従業員11,700人であるが、アイシングループとしての売上は2.7兆円、従業員は66,000人に達する。グループは国内67社、海外78社の合計145社あり、基本的には分社化経営を行っている。グループとしての06年度事業別売上比率は、ドライブとレイン関連42.6%、ブレーキ及びシャシー関連19.7%、ボディ関連18.2%、エンジン関連9.4%、情報関連他5.9%、住生活関連機器及びその他4.2%である。
部品は自社でテストしてから納める姿勢を当初から保持しており、1970年にはテストコースを藤岡に、1992年には豊頃(北海道)とフォーラビル(米国)に設置した。またマニュアルトランスミッションが成長鈍化した際には、ここを別会社化して独立採算を重視した結果、技術革新が生まれ、ポルシェカレラ911に採用されるレベルに到達した。欧州では未だにマニュアルが好まれている。オートマチックの技術ではオーバードライブ付き4速AT、6速AT、8速ATなどで世界最初の製品化に成功した。その他には、運転支援システムとして、走行、駐車、視覚、安全支援などのシステムで、世界初の商品化に成功した事例がいくつもある。新規事業としては、フェムト秒ファイバーレーザーが、カール・ツァイス社の視力矯正機に採用され、VisuMaxという名称で商品化されている。シーズ研究にも力をいれており、バイオ関連では人工心臓、遺伝子解析など、エネルギー関連ではスターリングエンジン、常温核融合など、環境関連では燃料電池、極低温冷凍機などを実施している。
これからの事業を取り巻く環境変化としては、まず(1)市場変化への対応がある。先進国での普及は伸びず、BRICSでは成長が継続するが、労務費・エネルギーコストの安い国での生産が進展する中で、日本でのものづくりをどうするかを迫られている。(2)グローバルカーへの対応。インドのTataは66万円、ルノーDacciaは87万円、ブラジルのVWは138万円など低コスト車が出ている。これにどう対処して行くか。(3)開発スピード短縮への対応。開発期間は従来24ヶ月と言われていたが、必要なプロセスを継時的ではなく同時進行させることにより、6~8ヶ月に短縮させて開発競争力を保持する。(4)部品業界の再編への対応。(1)~(3)に対応するために、部品業界も世界的な再編が避けられない。

アイシンではこれらの変化に対応するため、ものづくり改革を進めている。競争力(技術開発力と時間競争力)を縦軸に、革新(開発と生産)を横軸としたマトリックスで区分される4つ分野を縦横に繋げる手法を活用しつつ、総てを支える人材育成を基本と位置付けている。小型化、低コスト化の一例を挙げれば、ABSは過去20年間で容積は1/8、重量は1/6、売値は1/5となっている。
開発と生産を繋げる革新を達成するための手法としては、SE活動とシンプルスリムがある。SE活動は次世代モデル、次々世代モデルまで考えながら、迅速に開発する活動で、以下の様な思考過程を辿る活動である。

   勝てる構造図 ← 勝てる目標値 ← 競合品のベンチマーク
      ↑
   アイデア創出 ⇔ 生産技術チーム 最先端技術
          ⇔ 欧州、米国駐在
          ⇔ 設計チーム WANTS

シンプルスリムでは既存概念を打ち破り、意識改革を起こすのが目的で、目標としては「すべてを1/3」と高く設定している。ここまで高くすると、単なる改善・改良では達成不可能であるため、全く別の思考活動が必須となり、例え旨く行かなかった場合であっても、1/2は達成出来るとのことであった。
人材育成はトヨタグループ共通の基本概念であり、かつ強みとなっているが、アイシン精機も例外ではなく人材育成を重視している。しかし現実の企業を取り巻く環境は、設備自動化と分業化、メール普及によるコミュニケーション環境変化、フラット化や成果主義による会社制度の変化、情報の氾濫による情報環境の変化(聞かなくなる)など益々困難な方向へと進んでいる。そういう中での人材育成は困難を伴うが、アイシンでは高度の技術者の養成を目指し、五感だけではなく第六感を磨かせ、企業人としての心得を体得させるための新人教育に力を入れている。ものづくり原点工房では、五感を働かせたものづくりを教えている。
海外への展開が多くなっているが、その中でアイシン共通の概念を確立し、それを海外従業員に伝えるためのAISIN WAYを実践中である。
日本のものづくりの最強の一つである自動車部品の製造でトップに位置するアイシン精機において、工場見学およびものづくりについて林常勤監査役(前取締役 副社長)の講演をお聞きし、なぜ世界でトップの位置を占めることが出来たかという理由の一端を垣間見ることが出来た。技術革新を現場・現物で絶え間なく実行しているだけでなく、革新の目標自体が極めて高く設定されており、思考方法そのものにも革新が求められていることが印象的であった。またトヨタグループに共通する人材育成があらゆる所で顔を出してくるのにも感心した。
アイシン精機は企業の成立と発展過程で数多くの企業に分社化しており、それぞれが強みを発揮して独立的に発展してきた。林常勤監査役も質疑応答セッションで答えられた様に、これから部品のシステム化が進む中で、グループ企業それぞれの技術開発力強化とグループとしての協力作業をどう効果的に進めるかで、アイシン精機の指導的役割が一層重要なものとなっていくと予想される。今まで高い設定目標を次々に達成してきた歴史を見ると、それもまた実現していくことが期待出来た。(文責 相馬和彦)

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