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キヤノンのものづくり戦略

と き :2008年8月21日
会 場 :森戸記念館
ご講演 :キヤノン(株) 常務取締役 本田晴久氏
コーディネーター:LCA大学院大学 副学長 森谷正規氏
 

 「21世紀フォーラム」2008年度前期の最終回は、キヤノンの本田晴久常務取締役生産技術本部長から、キヤノンのものづくり戦略のお話をいただいた。まずは会社紹介だが、創業以来のDNAから始まった。それは「技術重視」、「進取の気象」、「人間尊重主義」の三つであり、人間尊重の中には「三自の精神」つまり、自発、自治、自覚がある。2007年の業績では、売上高が4兆4813億円、純利益が4883億円であり、利益率は10、9%になる。最近になってようやく、低収益が一般である日本企業の間に利益率が10%を超える企業がかなり現れてきたが、キヤノンはその代表格である。キヤノンは特許を非常に多く登録していることで有名だが、過去10年間の米国特許累積登録では、IBMに続いて2位である。地域別売上高では、国内は21%で8割は海外であり、まさしくグローバル企業である。
 次いで、キヤノンの長期経営計画・構想の変遷についての話があったが、新しいものは「グローバル優良企業構想」であり、「全体最適の追求」と「利益優先主義への転換」が意識改革の目標として挙げられている。利益優先のための生産革新では、セル生産を広く導入してコンベアを全廃しており、それは20kmに達し、また外部倉庫の返却は15万平方mにもなっている。「設備のムダをなくす」ことを強調されたが、これは目新しいことである。工場に立派な設備を持つのは、とかく自慢になるのだが、そこにムダがないか徹底的に探し出して、設備投資額もスペースも減らしてムダをなくすように最大の努力をするのである。
   また、セル生産を通して「ものづくりは人づくり」であると気づいて、「マイスター制度」を設けた。優れた技能を持つ多能工者を認定し表彰するのである。最初から最後まで自律して仕事をこなす作業者を多能工者とするのであり、セル生産に必要である。高度なカラー複写機を一人で組み立てる作業者がいて、それはマイスターのS級、最高位としている。
 いま目指している開発生産革新に話が入ったが、それは「内製化と統合的ものづくり」である。キヤノンは、いま改めて内製化の拡大を目指すという。キーデバイス・キーコンポーネントを自社で開発・生産するとともに、ユニット部品や基盤実装、さらに製造装置、レンズや部品を成型する金型などの内製化を進めるのである。それは、より独創的な製品を創出することとコストダウンを両立させるためである。製造装置や金型まで、内製化の幅がとても広い。これは商品開発のスピードアップやリードタイムの短縮にもなり、内製化こそが競争力の源泉であるとする。製造装置では自動組み立て装置を開発するが、専門企業を買収しており、金型も金型メーカーを買収して、グループ企業化している。

   キヤノンは、自動化生産に積極的である。御手洗富士夫会長が、日本企業の国際競争力維持の一つの道として、完全な自動化生産を挙げている。いまそのための組み立てロボットを内製化しようと自社で開発している。
 「統合的ものづくり」は、二つの事例を基にして話された。一つは、トナーカートリッジである。これはキヤノンが卓上複写機の心臓部として開発した独自の部品であり、感光ドラムとトナーを含む高度な部品である。その構造と開発の経緯から話が始まったが、高度な原材料生産、自動化生産、回収・リサイクルまで統合して行っている。これが、技術で独走し、また高利益を上げている源泉であることが良く分かった。

 二つ目の事例は、DOEと超精密加工技術である。DOEは、回折光学素子のことであり、超高級レンズに用いられて、レンズ性能を向上し、小型化、軽量化を可能にする。基板となるガラスレンズの間に非常に複雑な形状のプラスチックを挟むのであり、その成型の金型に、世界最高性能の超精密加工装置を用いる。光学設計、素子設計から始まって、金型と加工装置、材料、成型、さらに形状測定機まですべて自社内で技術開発し製作したのである。
   国際競争がいっそう厳しくなる中で、キヤノンの内製化を基にした統合的なものづくりは、真に良い製品をコストを上げずに作って国際競争に打ち勝つ有力な方向であることが良く分かった。

(2008年9月 森谷正規)

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