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2009-06
循環と再生を促進するシステムの自己解体/下原勝憲氏
- 2009-06-06 (土)
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下原 勝憲 氏 同志社大学 |
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1952年04月 生れ 1978年03月 九州大学 情報工学 修士課程修了 1978年04月 日本電信電話公社 横須賀電気通信研究所 入社 1986.2 ~1987.2 米国マサチューセッツ工科大学 メディア研究所 客員研究員 1989年04月 NTT(社名変更) ヒューマンインタフェース研究所 主幹研究員 1995年02月 ATR 人間情報通信研究所 進化システム研究室室長 1996年07月 NTT ヒューマンインタフェース研究所 進化システム研究グループ グループリーダ 同 年04月 京都大学大学院 情報学研究科 システム科学専攻 客員教授 1999年01月 NTT コミュニケーション科学基礎研究所 社会情報研究部部長 2000年 工学博士(九州大学) 2001年11月 ATR 人間情報科学研究所 所長 2004年04月 ATR ネットワーク情報学研究所 所長 2006年04月〜 同志社大学工学部情報システムデザイン学科 博士課程教授
〈歴任学会役員〉 |
生物進化の仕組みをまねて,自ら成長・発達・進化するコンピュータ・システムの研究を始めて20年近くなる.
例えば,進化するプログラムとは,変化やエラーを利用してコンピュータ・プログラムが自分自身を書き換え,その構造を変え,新しい機能を自律的に創り出すことである.システム自体に自律性や創造性といった特性を持たせる可能性を探ることが目的である.
研究を開始した当初から,システムの創造性や自律性を如何に制御するかにも関心があった.
当時,一つの考えはシステムに“寿命”を持たせることであった. 即ち,幾つかの条件が成り立つとシステム自体が自らを解体していく,いわば,プログラムされたものとしての“死”のモデルであった.
不死の進化モデルと自己解体を組み込んだ進化モデルとを同一環境でシミュレーションしたところ,意外なことに自己解体を組み込んだ進化モデルが進化を加速する結果が得られた.ここではこのことを再考してみたい.
先ず、プログラム進化を例にシステム進化の方法論を以下に概説する.
文法やルールを用いてプログラムを自動生成する仕組みを用いて,プログラムが自らのコピー(言わば子孫)をつくる.その際,ルールの交換や変更・改造など変化を加える.そして、それらの変化が望ましい機能を生み出せば選択し,そうでなければ廃棄する.選択されたプログラムは自らのコピーを作るサイクルに組み込まれ,さらに変化していくことになる.一方,廃棄されたプログラムは消去され,それが占有していたメモリ空間はプログラム進化のリソースとして再利用される.
従って,一般的な進化的方法論においても解体とリソースへの還元というかたちで死が組み込まれているとも考えられる.
では、プログラムされた自己解体モデルは,一般的な進化モデルと何が違うのか?
それはシステムがシステムとして自己同一性を保持しているかどうかにある.
現時点でシステムが自己同一性を意識できるわけではないので,システム性と言い換えてもよい.一般的なモデルではシステムがその大部分を作り変えたとしても環境変化に適応しただけでシステム性は保持される.それに対し,自己解体モデルはシステム性をなくすことを意味する.
次に、その違いが自己解体モデルにおいて進化を加速した理由は何であろうか?
それはシミュレーション環境においてトータルでのリソースの有限性を前提にしたことによる.
進化は,生成をどれだけ沢山繰り返し,その中でどれだけ多くの変化を試すことができるかに依っている.若し、生成のためのリソースが無限であれば,リソースを循環させ再利用するという意味で,原理的に一般の進化モデルと自己解体モデルとの差はない.しかしリソースが有限な場合,自己保持を優先する進化モデルはリソースの循環と再利用を制限するのに対し,自己解体によりリソース還元を確実にし,生成と変化のチャンスを恒常的に提供する自己解体モデルが結果的に進化を促進したもの、と考えられる.
自然環境はいうまでもなく,社会的・経済的なリソースも有限である.有限系の中で,成長・発達・進化していくためには,システムの自己同一性の保持に固執せず,生成と変化のためのリソース還元・再利用の仕組みをうまく機能させることが重要なのかもしれない.
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