- 2010-03-13 (土) 11:55
- イノベーションフォーラム21
と き :2009年11月26日
会 場 :東京理科大学 森戸記念館
ご講演 : (株)豊田中央研究所 代表取締役 瀧本正民氏
コーディネーター:放送大学 客員教授 森谷正規氏
「21世紀フォーラム」2009(後期)の第3回は、豊田中央研究所の代表取締役である瀧本正民さんの「多くの失敗プロジェクトから考える」というテーマでのお話であった。瀧本さんは、トヨタ自動車の前副社長であり、トヨタの技術開発の総リーダーを長年にわたって務めてこられた方であり、いまではGMを抜いて世界でトップの自動車メーカーに発展したトヨタの技術の神髄に触れることができる。
前半は、失敗プロジェクトについてであるが、トヨタがいかなる失敗をしたのか、非常に大きなものはないはずである。最初に挙げたのは、マスキー法日本版に対する対策である。公害問題が激化した時代であり、自動車排ガスに対する厳しい規制が課せられたのだが、自動車メーカーは対応に苦慮した。まずは触媒による排ガス浄化が可能性が高いのだが、ホンダがエンジン改良による対応であるCVCCを開発して成果を上げていたので、トヨタはその技術を導入した。これはガソリンに対して空気をリッチにした希薄な状態で燃焼させて有害成分の発生を減少させる方法であり、その最適な状態を探し出すのに長期の試行錯誤を繰り返さざるをえなかったという。そして、触媒浄化も加えて、ようやく技術を完成させた。問題解決に至るまで、多大の努力を要したことへの反省であった。これは、困難な技術開発には必然とも言える。しかし、それを失敗と見ることによって後の糧にすることができるのであり、トヨタらしい失敗への反省である。
なお私は、CVCCを採用すれば、触媒浄化は必要は無いと認識していたので、不審に思った。そこでコーヒーブレイクの際に、ホンダの元副社長であった入交昭一郎さんが参加していたので、ホンダはどうだったのですかと問うてみたが、思いもかけない答えが返ってきた。CVCCでは、HC(ハイドロカーボン)がかなり残る問題がなかなか解決できなかった。ところがトヨタにCVCC技術を提供した後に、偶然にも解決策が見つかった。それは、ステンレスのマフラーを用いると、熱で真っ赤な灼熱状態になって、そこでHCが燃焼するというのである。マフラーが触媒浄化の役割を果たしたのだ。素晴らしい技術開発にも、このような偶然の成果があるのだ。
この会は、入交さんのような卓越した技術開発成果を上げた方々が参加されているのであり、コーヒーブレイクの際にその一端を知ることができる。
また、失敗では、米国で開発した大型ピックアップトラック「タンドラ」の例も、簡単に触れられた。これは、2007年に発売したが、当初は売れたものの2008年に入って販売が落ち込んで減産そして中止に追いやられた。リーマンショックによるトヨタの大苦境の中で、新聞、雑誌でも失敗例としてしばしば取り上げられた。トヨタとしては珍しい新車開発の失敗であり、原因は原油価格の高騰、厳しい不況の到来などにあるが、もともと米国の車づくりの車種に手を出したのが、失敗の根本原因であるだろう。
なお、このタンドラの失敗については、この会で何カ月か前に、トヨタの系列企業のトップであった人に雑談で、トヨタはなぜタンドラに手を出したのかを聞いて見たが、米国人の販売会社社長が強く勧めたということらしかった。
瀧本さんのお話の後半は、これから激変していく自動車の将来と、それに対応するトヨタの基本姿勢であった。ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池自動車に変わっていくのだが、いかなる車が伸びていくのかが、大きなテーマである。そのお話では、トヨタの堅実な姿勢が感じ取られた。やはりハイブリッド車に全力を注ぐのであり、2020年までにガソリンエンジン車はすべてハイブリッド車にするという。これは至極真っ当な戦略である。トヨタは電気自動車では、非常に小型で簡易な車として、世に問うという方針である。これも、私の主張とまったく一致する。というのも、重くて大きくて高いという電池の問題がなかなか解決できないからである。電気自動車の将来は、リチウムイオン電池が、いつどれほど大幅なコストダウンをするかにかかっている。その点を瀧本さんに質問したのだが、明快な答えは得られなかった。相当に困難でありひたすら努力するしかないということであるだろう。
これからも日本の大黒柱であり続ける乗用車、トヨタの将来についてのお話が聞けて、たいへん心強かった。
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