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自動車の進化を支える部品産業・・・(株)デンソー 取締役会長深谷紘一氏

と   き:2011年9月16日

訪問先 :(株)デンソー 西尾製作所 (愛知県・西尾市)
 
講  師 :取締役会長 深谷紘一氏
コーディネーター:テクノ・ビジョン代表、元帝人(株)取締役 研究部門長 相馬和彦氏


 2011年度前期の最終回は、平成23年9月16日に、愛知県西尾市にある(株)デンソー西尾製作所を訪問した。3月11日に起きた東日本大震災の影響により、第1回に予定されていたバイエル薬品が延期されているが、第2回以降は予定通りに実施され、今回のデンソー訪問で最終回となる。
 日本の自動車産業が、品質とコストの優位性で世界を席巻するにつれ、有力な部品メーカーであるデンソーもグローバルに事業展開し、順調に発展してきた。その事業環境が現在劇的に変化している。先進国の金融危機を契機とした経済成長の停滞と、それに変わる新興国の成長の中で、安全のための資金シフトによる円高と東北大震災後の国内経済停滞が加わり、高品質を武器とする輸出で成長してきた日本のものづくりそのものが問われる事態となった。日本のものづくりをどうするか、グローバル展開と国内生産をどうするか、会社の将来を決定する戦略の是非が問われている。国内およびグローバルのものづくりで成功してきたデンソーが、どのような戦略で将来も見据えているかは本会メンバーには大きな関心があり、多大の示唆を得られることを期待して訪問した。
 今回の訪問は、ダイハツ工業(株)の元代表取締役副社長 東孝司氏のご紹介によって実現したものである。
最初に西尾製作所所長の野中元晴氏により、西尾製作所の概況説明があった。西尾製作所は1970年9月に操業開始され、119万坪、ナゴヤドームの25倍という広さがある。製作所には東工場、北工場、道路を挟んだ反対側に南工場があり、従業員は7,988人、関連会社8社が共存している。敷地が広いため、工場間の移動には車が必須であり、また駅から離れているため、社員の送迎用バスが工場入口近くに10台程度駐車していた。
 西尾製作所の主たる製品は、ラジエーター、ガソリン・ディーゼルエンジン用燃料噴射装置、カーエアコン、エンジン関連部品などである。
次に本日のメインである「自動車の進化を支える部品産業」と題する講演を、取締役会長の深谷紘一氏より伺った。講演は最初から深谷氏個人の思想が極めて色濃く出ており、通常の企業トップの講演が、部下が作成したと思われる綺麗な図表を基になされるのとは一線を画し、ご自身が作られたことが最初から分かる内容であった。経営思想が明確に示されていて、極めて内容が濃く、しかも企業人には納得の行くものであった。講演後に想定される質問に対しても、講演内容に既に回答が示されており、質問が必要ないレベルであったことで、聴衆に強い印象を与えた。以下に講演の要旨を纏めた。
 車は1台300万円、しかるに部品は1個300~3,000円である。自動車メーカーを支えるのが部品メーカーの原則だが、言われる通りでは食っていけないのが現実である。
 会社設立は1949年12月16日、資本金は1,874億円、2010年度の売上(連結)で3兆1,315億円、従業員(連結)は12.3万人。売上高比率は、製品別では熱機器30.5%、パワトレイン機器24.7%、情報安全16.8%、電子機器9.2%、電気機器8.7%、モーター7.4%、その他2.7%である。地域別では、国内56.1%、アジア・オセアニア17.3%、北米14.2%、欧州10.7%、南米1.6%である。景気変動による多少の変動はあったが、売上は着実に成長してきた。
 自動車産業の歴史を振り返ると、日・米・欧の市場は縮小し、アジアが成長している。メーカーでも、GMは落ち込み、トヨタ、VW、現代の成長が著しい。一時もて囃された、規模が大きければ良いというのは疑問だ。元気の良いのはホンダ、BMWなど規模は大きくない。
 企業の栄枯盛衰は世の習いで、企業の寿命30年説がある位だが、企業が駄目になるのは外圧ではなく内部崩壊だ。過去の歴史を見ても、主要な輸出品が30~40年に渡ってリーダーで有り続けた例はない。いつの時代にあっても、次はどんな時代になるのかを考えて企業の舵取りをする必要があり、そのためには感受性+適応力/実行力がカギになる。
 時代の変わり目では、守るべきもの、より磨くもの、変えるものを良く見極めることが必須である。守るべきものは、創業の基本姿勢であり、より磨くもの、変えるものは、デンソー流の仕事と考え方である。
 開発活動は信頼と期待に応えなければならない。そのためには、「一歩リードの開発」がカギになる。世界の人々が求める車として、あこがれの車、負のイメージを払拭した車、便利な車の3グループがあるので、どれを目指すか。先進的車の開発では、環境(クリーンな車)、安全(ぶつからない車)、快適(楽しくなる車)、利便(つながる車)が目標となる。最終的には、炭酸ガス排出ゼロの車、交通死ゼロの車の開発となる。
 車の進化は、コア技術の蓄積とその錬磨が開発のカギになる。モジュール化が進むと、自動車も家電のように大変な時代になるが、電気自動車はそんなに早くは普及しないであろう。
 デンソーとしては、5つのコア技術(電気、機械、熱、電子、情報)で事業拡大を可能として来たが、次のコア技術が何かが最大の問題である。ハイブリッド車技術では、アイドリングストップが欧州で人気を得ている。エネルギーマネジメントでは、熱の回収と利用を徹底する。ITS(Intelligent Transport System)で、社会・人・車をつなぐことも検討している。インフラ協調システムは、網走を特区としてテストしている。
 成長を勝ち取るためには、3つの視点で技術・製品を見ることが必要となる。第一は世界初であること、第二は世界No.1であること、第三は平凡さである。平凡さは、日常的な中で新しさ、良さを追求することで、kg当たり1,000円の成熟製品づくりを可能とし、家庭料理の良さ・すごさを発揮し、生活必需品のものづくりに徹することである。
 平凡さで力を発揮するのは、一味違うものづくりである。それを可能とするのは、

  1. 自前の技術開発。自前の技術なので、限界や世界一に挑戦出来る。
  2. 内製設備。内製なので、自社で最適化出来、かつ独創的な設備になる。
  3. 当たり前の進化。当たり前のことを本当にやっているかが差になる。

勝ち抜く仕事を進めている。まず、製品設計と生産技術を同時に並行開発している。小型車で実績があり、世界一の製品を世界一の技術で作ることが出来た。また、技術と技能を融合している。これは、技術者と技能者の処遇差が小さいことも可能な一因であろう。
 品質はビジネスの前提であり、不良品は減らすものではなく、なくするものと考えている。日本車の品質も、今は優位ではなくなっており、同レベル化して来た。
 人を基本とする経営も、勝ち抜くためには重要である。企業の船出の時に、全員で苦難を乗り切った経験から、労使協調路線を維持している。会社の創業時は、どこの企業でも弱小であるが、その時の理念が大切なので、1956年に社是を設定した。ものづくりの基本は、人づくり+大勢の仲間と大きな仕事をし、大きな喜びを得ることだ。人材育成のため、デンソー技研センターを作った。
 「うれしさ」と「やさしさ」を世界の人々へと考え、Denso Vision 2015を作った。標語は”Beyond All Expectations”である。
 Denso Spiritを表すと、先進、信頼、総智・総力となる。先進は、「一歩リード」、「一味違う」、信頼は、「すごい! さすが!」、「トコトンやりきる」、総智・総力は「燃える頭脳集団」、「職能向上・グローバル化」という意味である。
グローバル展開に際しては、すべて現地化はせず、良いものは日本に残すことにしている。また、デンソー流をグローバルに浸透させたい。現状では、whatは○、how toは△、whyはon the wayである。
 自動車産業は、先進国では成熟産業であるが、グローバル規模では成長産業であり、年間生産量が1億台の時代へと向かっており、保有台数も現在の9億台が15億台へと増加するであろう。ただ、完璧な商品開発のみを追求すると、なれの果てにならないかという危惧があり、日本だけの特殊解では駄目である。デンソーの50%は国内顧客であるが、そこの製品の半分は輸出され、また海外日本メーカーへの輸出も15%を占めている。
 為替レートで日本からの輸出は大変な時代となったが、為替は変動するので、これだけをベースに海外生産を考えるべきではない。デンソーは需要のあるところで作ること、小物は大量生産することにより、日本のものづくりを守りたいと考えている。
 講演はデータをベースにした企業説明ではなく、デンソーにおけるものづくりの思想とその実行内容が明確かつ具体的に説明されており、質問の余地は殆ど残されていなかった。時間的な制限もあったため、質疑応答は省略し、直ちに工場見学に移動した。以下に概要のみを纏めた。

①ラジエーター7号ライン ECM(Engine Cooling Module)コンポーネント製造ライン。 

  • 以前は単品を納入していたが、最近ではコンポーネントに組み立てた物にシフトした。材質を銅からアルミに変更して、薄肉、高強度、耐蝕を満たし、40年で重量は1/6に減少した。
  • チューブ成型工程 厚さ2mmのアルミ板からチューブを成型。成型速度150m/分。他社の1.5~2倍。
  • フィン成型工程。成型ローラーを内製化することにより、成型速度1000山/分を達成。他社の4~5倍。
  • コア組立工程
  • 蝋付け工程。加熱炉は内製。シビアな温度管理±10℃が必要。蝋付け個所は、プレート1個につき、18,000点ある。
  • ポリタンクかしめ工程
  • 洩れチェック工程。ヘリウムを使用。洩れの検出感度が高いため。
  • 運搬。箱は使用せず、裸で運搬する。
  • 一貫工場づくりに徹したため、ECMの出荷量が増加した。製品の変化に対しては、工場の再編成で対応したが、手作りに拘って来た。新人は1週間程度トレーニングし、すぐ現場に配属する。
  • ECM取り付けラインの改善例。プリウスやカムリ用を3~7人で注文に対応しているが、工程の細かい所に様々な改良がなされている。現場提案を重視する姿勢。
  • 在庫。専用箱に入れて、10分程度。

②HVAC(Heating Ventilation and Air Conditioning)

  • 50万台/期製造。海外向けが50%+。素材加工から組立、出荷までの一貫工場。フレキシブルラインで最大20品目が、高速化でサイクルタイム3.6秒、100%自動化(オペレーターは4名/直)で製造されている。
  • フィン、チューブ成型・組立工程
  • 払出工程。6系列から6種の製品が合流するのを、穴で識別して次の工程へ送る。
  • 蝋付け工程
  • パッキン貼付工程。ロボット同士が受け渡して貼り付ける。内製ロボットを使用。
  • 射出成型工程。中間材料の在庫ダウンを行った。1997年と2004年対比で、サイクルタイムは60%に、2004年と2009年対比で、金型抜き取り時間が15分から1分に短縮した。
  • セル組立工程。ポリマー部品の共通化により、品種を減少。セルの組み合わせにより、生産量の増減に対応している。部品を旨く組み合わせる動作を、ロボットに教え込んでいる。
  • 組立ライン。組立と検査。
  • 検査ロボット。組立ながらスナップショットを撮って比較検査する。
  • 製品出荷工程。HVACの在庫3.5時間。トヨタ向けは14,000個/日。入荷・出荷にはフォークリフトは使用していない。作業者の安全のため自動化した。

③展示室 カーエアコンの歴史、製品の変遷が展示されている。

 本講演は経営者の思想やお人柄が随所に滲み出る内容で、しかも極めて明確であったため、参加者の心に強く共鳴した。現場の見学でも、その思想が具現化していることが明瞭に分かり、経営方針が現場に浸透していることが自明であった。
筆者がこの研究会のコーディネーターを務めるようになってから7年を経過したが、その中で今回の講演は白眉であった。今回以外にも強い印象を与えられた講演があったが、いずれも創業者かそれに近い経営者であることを考えると、デンソーという企業には、1949年創業時の経営思想が、60年の時を超えて脈々と受け継がれているのであろう。
 世の中の変化を取り込もうと、様々な経営理論が出ては消えていく中で、講演の中で述べられた「当たり前のことを本当にやっているかが差になる」という言葉は、激変の時代であるからこそ、各企業はもっと真剣に受け止めるべきであろう。 (文責 相馬和彦)

 

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