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2013-07
古代日本の超技術、あっと驚くご先祖様の智慧 静岡理工科大学 志村史夫氏
- 2013-07-24 (水)
- イノベーションフォーラム21
《と き》 2013年7月19日
《講 師 》 静岡理工科大学 教授 志村史夫氏
《コーディネーター》 放送大学 名誉教授 森谷正規氏
2013年度第4回例会は、静岡理工科大学 教授をされている志村史夫氏をお囲みした。
志村史夫さんは、異色の研究者である。半導体の結晶に関して、米国でまとめられた半導体技術発展の歴史の中で紹介されるほどの偉大な成果を、米国で上げられた。帰国してからは数々の古代の技術に関する調査研究に熱中して、ベストセラーになる本を書いている。さらに、「男はつらいよ」の寅さんの熱烈なファンであり本まで書いていて、この名作映画を振り返るNHKの特別番組に依頼されて出演するという、また違った局面もある。
この三つに共通するのは、面白いと思ったものは何であれ、全力を挙げて打ち込むことである。このお話では、寅さんは出て来ないけれども、最先端の半導体と古代の技術が見事に結び付けられていて、志村さんでなければ聞けないお話であった。
まずは、日本の伝統的な職人の素晴らしさを示す。能力としては、研ぎ澄まされた感性を持っていて、豊富な知恵の塊であり、その姿勢においては自信と誇りを持ち、責任感があって、しかも謙虚であり、さらに、凛としていることを強調された。
そこで、古代の技術として話されたのは、五重塔、たたら製鉄、木工、瓦の四つである。
まずは五重塔だが、三重から九重まで含めると、日本には塔は500以上もあって、それが、千数百年の歴史の中で40回以上もの超大地震が生じたにもかかわらず、倒れたものは一つも無いという。この巨大な建造物は、最大では96メートルの塔があったというが、クレーンが無い時代に、いったいどうして建てたのか。さまざまな知恵を駆使したに違いない。
その塔の中心に心柱があって、それが、制振装置として働いて、地震に耐えたのである。心柱は東京スカイツリーにも採用されていて、今では有名になっているが、古代の不思議とも言える技術である。
この巨大な柱は、初期には地面に接していたが、時代を経て、宙づりになった。この心柱という仕組みをいったい誰がどのようにして思いついたのか、私は不思議に思っていて、質疑の時間にお伺いした。それは、まったく分からないというお答えであった。
私の思いつきに過ぎないのだが、経験から生まれるとしたら、巨大地震は滅多にないが、台風は年に何度も来るのであり、台風による揺れを減らすのに心柱が効果があると気づいたかもしれないと、その考えを申し上げた。しかし、それを知りようはなく、謎としておくしかないようだ。
木工に関しては、鋸と鉋がない時代の加工の巧みさに驚く。巨大な樹木を、手斧と槍鉋で、柱や板に加工するのである。切り倒した木材を、まず打ち割り法で割っていく。それで、かなり精密に割ることができるようだ。
そこで、半導体が登場してくる。シリコンウェハーを今以上に極めて薄く切るのに、結晶面に沿って割っていくと言う方法が考えられ、それが合理的で、その方が性能の面では優れているはずだという。これは、槍鉋での加工にも言えて、台鉋で削った板に比べて、表面の水をはじく能力が良くて、染み込みが少ないという。木が持つ本来の構造を強引に壊してないからである。
材料を、高度な装置で強引に加工するのではなく、材料の基本的な構成を活かして加工するのが理にかなっていると思わせる。特に木材に関しては、古代からの寺社の建築技術において、それを気づかせるものが多い。
なお、手斧も槍鉋も、古代のものは現存してなくて、法隆寺、薬師寺などの古代の柱の削り跡を基にして再現している。法隆寺の棟梁である西岡常一さんの依頼で、土佐の野鍛冶である白鷹幸伯が創ったのだ。
鉄は、錆の話から始まった。鉄は風雨に晒されるとすぐ錆びてボロボロになるが、それは赤錆であって、黒錆が生じると、内部には浸透せず、むしろ保護してくれる。したがって、法隆寺、薬師寺の釘が、千数百年後にも残っているのである。なお、法隆寺再建の用いた古代の釘も、白鷹さんが創った。
なぜ千数百年も持つのか、それに関連するのがたたら製鉄の炉の仕組みにあり、それを詳しく話された。しかもそれが半導体に結び付く。たたらの鉄は、純度が非常に高い。シリコンウエハーも、イレブンナインの純度が要求される。その共通点が、ゾーンメルティングであるという。部分的に溶かしながら、不純物を減らしていくのである。古代の人は、ゾーンメルティングという原理は知らなくても、経験と知恵でそれを実現していたのである。
古代の釘は、純度が非常に高いから錆びないのである。現代の釘は、生産性と加工性を上げるために、さまざまな金属を混ぜている。白鷹さんにも十数年前にこの会でお話をお伺いしたが、鉄は、時代と共にある面では劣化していったという強烈な印象を受けた。なお、志村さんは白鷹さんとも親しく、高知まで行って、釘づくりを体験している。
鉄は非常に面白い材料であると志村さんはいう。一般には古くて新しみのない材料と見られているが、まだまだ新しい可能性が開けるのではないかと思わせる。
最後が瓦であるが、その素晴らしさは、非常に長い年月にわたって家を守ることと、生活の面では雨を漏らさず湿気を抜いてくれることであるという。日本の瓦は、その二つにおいて非常に優れている。人間国宝の瓦職人と志村さんは共同で、長い間、瓦の研究を続けてきている。その優れた性能をいろいろと話されたが、これも加工法において、半導体と結び付く。
それは、原料にする練った粘土の塊を切るのに、ワイヤを用いることである。古代から現代の最先端技術と同じ加工法を用いていたのだ。ワイヤを用いることによって、切り屑を最小にして、大きなものを速やかに切ることができる。古代も最先端も、人間の知恵の働かせようは同じである。
ところが、現代の瓦は、古代のような素晴らしい性能を持っていない。それは、30-40年も経つと建て替えるのがいまの住宅であり、それを求めないからである。
これが、考えさせられる重大な問題で
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性格の異なる多様な機器を生産する現場/東芝メディカルシステムズ 訪問
- 2013-07-24 (水)
- 異業種・独自企業研究会
《と き》2013年6月18日
《訪問先 》東芝メディカルシステムズ(株) (栃木県・大田原市)
《講 師 》常務 統括技師長 内蔵啓幸氏
《コーディネーター》放送大学 名誉教授 森谷正規氏
2013年度前期第3回は、東芝メディカルシステムズの那須事業所を訪問し、医療機器の生産現場を見せて戴いて、内蔵(くら)啓幸常務統括技師長から「東芝が目指してきたCT開発の経緯、今日の挑戦」と題するお話を戴いた。 東芝は、良く知られているように、レントゲンと言われた時代からX線装置を開発、生産してきて、MRI、X線CTなどの最先端の医療機器を、日本では先頭を切って開発してきた企業である。アベノミクスで安倍首相が強調している成長分野の有力なものが医療機器であり、今後への期待は大きく、まさに時宜を得た訪問であった。
生産現場は、X線装置、CT、超音波装置を見せて戴いたが、機器自体の詳しい構造や機能についての説明があって、実物を前にしての説明であるから、よく理解が出来た。CTは、極めて大型で複雑な構造をしていて、それがいかに進展してきたのかのが良く分かった。超音波装置は、対照的に小型であり、かなり量産的な製品である。それらの生産現場を見て、医療機器の多様性というものを認識できた。医用検体検査装置も生産していて、それは見ることはできなかったが、おそらくまったく異なる装置であるだろう。
やや意外であったのは、工場に入るのに、靴のままで良かったことだ。エレクトロニクスが核になる高度な機器であろうから、工場はクリーンルーム的であるかと思っていたのだが、そうではなく、超音波機器のプローブの生産だけは、クリーンルームで行われていた。CTが代表的であるが、電子というより電気機械の面が強いのだという印象であった。
医療機器は、非常に高価格の製品であるのだが、超音波装置は小型であり、内部は見なかったが簡易に見えるので、それほど高くはないだろうと、およそどれほどの価格であるのか、聞いてみた。
案内を戴いた方はやや口を濁していたが、最も高度な装置は1000万円ほどであるとのことであった。この装置は大きめの洗濯機ほどの大きさであり、その高さにびっくりした。隣にホンダの方がおられたので、「車とまったく違いますね」と言ったら、「車は安すぎます」と、苦笑していた。
CTについては、価格は今は公表していないとして言って貰えなかったが、数年前、その時点での最高機種は、五〇数億円とおっしゃった。もっとも、「それで買って貰えたら、儲かるんですけどね」と付け加えられた。
世界の3強に対抗するには
見学の後の内蔵さんのお話は、まず、世界の医療産業全体の状況から始まった。医療サービスの世界全体では、年間500兆円の市場であり、その中で医療機器は25兆円ほどとなっている。
問題は、日本は医療機器の世界市場では強力とは言えないことだ。現状では、輸出よりも輸入が多いという状況であり、先端産業では、このような分野は他にはないだろう。その大きな理由の一つは、しばしば言われるのだが、日本企業は治療機器に積極的には参入しないことによると言える。生命に関わるので、敬遠しているからと言われる。
もっとも、死に至る恐れはない診断装置は、エレクトロニクスと高度な機械技術によるもので日本の強い分野でもあり、欧米とほぼ並んでいる。しかし、そこにも大きな問題があると察することができた。五つの主な診断装置の世界シェアを詳しく話されたが、世界で強いのは、GE、シーメンス、フィリップスであり、日本は全企業を合わせて、それぞれ1社に対抗できる規模である。
ここに、日本の産業に共通する問題点があると言える。世界の3強は、それぞれの国で、ほぼ1社で独占している。しかし、日本は、数社が激しく競合している。この点については、質疑の時間に、問題提起として述べておいた。
もっともCTは、国内では東芝が圧倒的に強く、したがって3強と互角に戦っている。
いずれにしても、日本が医療機器の分野において世界市場で大きく伸びていくためには、技術を越える大きな課題があると言わねばならない。
その問題はさておいて、この場では、東芝がCTにおいて、いかにして技術開発を進めて、現在の世界でのトップレベルの地位を確保しているかというのが、内蔵さんのお話の核心である。
三つの方向への多様な進展であるCTの技術開発
そのCTの技術の進展について、極めて詳しく具体的に話された。まさしく日進月歩であり、これが医療機器の技術進歩だと、改めて強く認識した。CTに関して言えば、目指すべき目標と課題が実に多いのであり、それによってさまざまな方向への進展が求められる。
大きくは三つ挙げられるが、第一は時間であり、診断時間を短くしなければならない。第二は、診断する部位を広げることである。第三は、分解能を高めることである。そのそれぞれにいかに取り組んできたのかを、詳細に話された。まったく絶え間のない技術開発の連続が、CTである。このような技術開発は、他にはないのではないか。
興味を引いたのは、その過程において、第三世代から第四世代へ、さらに第五世代へと開発を進めていって、結局は、第四、第五は、開発して一部は製品化したものの、問題点があって本格的な採用には至らなかった。
一方で第三世代が抱える問題点を解決するのが現実的であって、今はその方向へ進んでいることだ。技術的に非常に細かなことになるので、内容には入らないが、半導体などに見られるようなひたすらの性能向上への一本道の開発ではないのがCTである。それは、人間というきわめて複雑な対象を扱う技術であるからと言えるだろう。
米国市場でいかにしてシェアを高めたか
世界市場への展開については、米国市場においての低かったシェアをいかに高めたかというお話が示唆的であった。シェアが低かった理由は二つあって、一つは、操作をする技師にとって、東芝製は操作が繁雑に過ぎて評判が悪かったことだ。日本では、患者一人一人に対応して、細かに変えることができる利点を打ち出していたのだが、米国では、決まったパターンでの操作が求められる。日本人のきめ細かさに対応する機器が、海外では通用しないということであり、他の分野にもある重要な課題だ。そこで、操作パネルをすっきりさせるなど、操作の面での改良を行った。
二つ目は、新製品の高度な性能を、撮影時間の短さや分解能などの数字で現していたが、それが現実にいかなる利点であるかについての説明になってなくて、何がいいのか理解して貰えなかったことである。性能を数字で示して、素晴らしいでしょうというのは、日本の製品に多く見られる問題点である。そこで、米国で医師と組んで、その高い性能が診断の上で具体的にいかなるメリットをもたらすかを明らかにして、それを基に売り込むようにしたということである。医療機器においては、特に重要なことである。
考えて見れば、この二つともに、さまざまに異なる現地の状況に合わせていかに売り込むかという、これからの日本企業の共通の課題である。最先端の高度な技術製品である医療機器においても、この問題があったのであり、心すべきことであると痛感させられた。
医療機器は、高度であり、複雑であり、多様性があるという面で、日本企業が大いに力を発揮できる分野である。その部品や素材において、多くの企業が力を注いで、世界市場において大きく伸びて欲しいものである。
なお、余談として付け加えると、福島原発事故でにわかに広く知られるようになった放射線被曝の問題があって、CTは、一回の診断で6ミリシーベルトほどの被曝があり、かなり大きいとされた。この数値が一般的に言われていて、ご存じの方が多いだろう。ところが、東芝のCTでは、今は被曝は0、1から0、2ミリシーベルトほどに過ぎないという。CTの検査を受けるのに、放射線被曝は、まったく心配することはありません。
森谷正規
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