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単層カーボンナノチューブ(CNT)の製造技術と用途展開/日本ゼオン 荒川公平氏

《と   き》2013年3月11日 
《講  師 》日本ゼオン(株) 取締役 常務執行役員 荒川公平氏
《コーディネーター》放送大学 名誉教授 森谷正規氏

 

「イノベーションフォーラム21」の2012年度後期の第5回は、日本ゼオンの荒川公平取締役常務執行役員の「単層カーボンナノチューブ(CNT)の製造技術と用途展開」というお話であった。

 まず驚いたのは、CNTと言えばノーベル賞の有力候補と言われるNECの飯島澄男さんが頭に浮かぶが、荒川さんは、飯島さんの創造研究より10年程も前の1982年に日機装において研究に取り組み、気相流動法と言う製造法を考え出して、基本特許を取っていたことだ。もっとも当時は、カーボンナノチューブという名称はなかったが、きわめて細い炭素繊維ということでは同じである。
荒川さんはその後、富士フィルムに移って光学フィルムの研究開発で大きな業績を上げたが、さらに日本ゼオンに引っ張られて光学材料事業の指揮を取り、2005年に産総研の研究者から、一緒にCNTをやらないかと強い誘いを受けて、再び取り組み始めた。産総研は「スーパーグロース法による単層CNT」という性能的に有望なCNTを開発していて、その製造法での協力が欲しかったのだ。
 最初にCNTの詳細と研究の歴史についての詳しい話があったが、早くから世界で多くの人が研究に取り組んでいたことを知った。そこで思ったのは、革新的な技術には、大きく注目される前の揺籃期があるということだ。一大革新技術に進展すると気づかずに、ちょっとしたことから偉大な成果を取りこぼすというのが、技術の歴史であり、それを知っておくことは重要である。
話の核心は、スーパーグロース法CNTであり、これは高速合成技術であって、生産性が大きく向上する可能性が高く、しかも、純度が99・5%以上であって、性能的にも非常に優れている。
 CNTの実用化がなかなか進まないのは、コストがグラムで数万円、数十万円ときわめて高く、また純度が低いせいである。スーパーグロース法で、その壁を突破していく期待が大きい。性能的には、直径が大きい、比表面積が大きい、長尺のものができる(100ミクロン-数ミリ)などもある。
現在、このCNTは、産総研との共同プロジェクトで大量生産を目指した大型の実証プラントが建設されていて、これは全長が12メートルの本格的なプラントである。これによって生産されたサンプルの提供も始まっている。
その応用として、まず本格的に取り組んでいるのが、キャパシタの開発である。とりあえずは小型情報機器用であるが、将来は乗用車、建設機械の蓄電システムへの利用の可能性がある。
 この開発は、産総研と日本ゼオン、東レ、日本電気、帝人、住友精密工業で組織された技術研究組合によって行われている。
さてこうしてCNTの応用はいかに開けていくか。それについては、CNTの数多くの優れた特性を基に、現在開発が進められているものについて具体的に話をされた。それを挙げると、熱伝導特性が良いので、少量加えることによって、鉄並の熱伝導率を持つゴムの開発ができる。またアルミと複合して高伝熱財ができる。電気伝導特性を利用して、導電性ゴムができる。伸縮性の有機ELディスプレイへの応用も研究されている。
長期的な可能性については、エネルギー分野とエレクトロニクス分野が有望である。燃料電池、色素増感型太陽電池、リチウムイオン電池などがあり、プリンテッドエレクトロニクスが開けて、きわめて革新的なものとしては単一電子トランジスタがある。
問題は、それらにいかに現実性があるかだ。そこでやはり大きな要因は生産コストである。ここで、話を聞きながら、あることに思いついた。導電性ゴムなどでは、きわめて少量だけ交ぜればいいのだ。0・01%という例もあった。つまりこれは「味の素」である。パラパラ振りかければ、美味しくなるのと同じように、ほんの少量加えるだけで、性能大きく向上するのだ。それであれば、少々高くても良い。CNTはきわめて高価であるから、実用化はかなり先だという思い込みは捨てなければならない。現に、すでに多くの企業が応用開発に取り組んでいる。産総研と技術研究組合は、生産技術は極秘にするが、応用に関する技術は公開する方針である。
そこで思い出すのは、20年ほど前に情報関連技術の開発で言われた「この指、止まれ」型の開発である。これからは、核となる技術を自社で囲い込まずに公開して、多くの企業を呼び込んでこそ、成功するというものだ。ところが、それは米国が得意で、日本企業は積極的ではなかったために、敗れる羽目になった。CNTでは、できるだけ多くの企業が参加して、日本が先行せねばならず、そのチャンスが目の前に来ている。
なお荒川さんのお話では、最後にCNTの安全性に関して詳しい内容のものがあった。きわめて微細であるので、体内に入ると発ガンの恐れがあると言う問題だ。それについては深い研究が実施されていて問題のおそれは非常に小さいようだが、いずれにしても確証がなければならない。この安全性について、日本が先行して、国際的な安全基準、標準でりーどすべきという議論が行われた。

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