- 2013-04-11 (木) 16:39
- イノベーションフォーラム21
《と き》2013年3月27日
《講 師 》篠田プラズマ(株) 代表取締役社長 篠田 傳氏
《コーディネーター》放送大学 名誉教授 森谷正規氏
「イノベーションフォーラム21」の12年度後期最終回は、神戸の「篠田プラズマ(株)」を訪問して、篠田傅会長兼社長にお話をいただく会であった。篠田さんは、PDP(プラズマ・ディスプレイ・パネル)の父と言われ、富士通において実用出来るフルカラーのPDPを日本でそして世界で最初に開発された方である。NHKや大手の電機メーカーがこぞって開発に大きな努力を投入していた中で、ダークホースの快勝とも言える快挙であった。その感動の開発物語は、『イノベーション 日本の軌跡 4』に詳しく描かれている。私がコーディネータを務めたのだが、篠田さんとは10年振の再会であった。
まずは、超大型のプラズマディスプレイ「シプラ SHiPLA」を見せていただいた。幸運にも、前日に新聞発表するための今の時点で最大の縦2メートル、横6メートルの巨大なディスプレイを組んでいて、それを見ることが出来た。これは1メートル角のディスプレイを12個繋いだものである。目の前に圧倒する大きさで立っていて、しかも、すぐ近くで見ても映像は精細に映し出されている。
巨大ディスプレイの開発実用化の歴史は長く、野球のスタジアムや街頭でいくつか見かけることが出来る。だがシプラは、それらとは次元が違うものであると直感した。というのは、これまでの巨大ディスプレイは、はるか遠くの映像を見るものであった。つまり、非常に多くの観客、通行人に見せるために大きくしていたのだ。ところがその巨大ディスプレイは、近くに寄ると、画素が大きいために映像がとても粗くなって見られるものではない。
ところが、シプラは、2-3メートルの近くで、目の前に聳え、視界から外れるほど横に広がるような巨大な映像をくっきりと見ることが出来るのだ。篠田さんは講演では、これは感動を伝えるものだとおっしゃったが、まさしくそうである。
このシプラの特長は、これまでの巨大ディスプレイで見かけた太い線の繋ぎ目がなく、ほとんど気にならない細さであり、またディスプレイがフレキシブルで、曲げること可能であることだ。
こうした特長が活かされて、いまだに見かけることは稀である巨大ディスプレイを、近い将来にあちこちでしばしば見るようになるという予感がした。
篠田さんのお話は、今回も感動的であった。根底にある開発の基本精神は、10年前のお話と同じであり、「ロマン」、「夢」、「愛」である。ロマンから開発の動機が生まれて、最高のレベルのものを開発しようとする夢となり、それを実現するために必要であるのが「愛」というのである。
ただし、開発への努力の方向が、10年前とは大きく異なっていて、それは新たな感動を生むものであった。富士通でのプラズマの開発は、開発資金は乏しく、ほぼ一人だけで苦しい状況で挑戦したのだが、幸い上司に恵まれて、心置きなく開発に没頭することが出来た。技術の壁を突破することに全力を傾ければ良かったのだ。
ところが今は、ベンチャー企業としての挑戦であり状況は大きく異なる。失敗したら、相当な額の投資は回収出来ず周囲に迷惑をかけて、社員を路頭に迷わせることになる。だが、篠田さんは、資金面で非常に苦労しながらも、苦しさは見せず、明るく将来への大きな希望を持って開発と会社の運営に力を注いでいる。
ところで、今、日本の大型ディスプレイは惨憺たる状況にある。プラズマも液晶も、開発実用化では日本が世界を大きくリードしていたのだが、韓国勢にやられてしまった。特にプラズマは、パナソニックが最後まで奮闘したが、液晶に敗れる結果にもなって、火は消えかけている。一方で、有機ELディスプレイが着々と開発成果を上げてきて、大型ディスプレイにも進出し始めている。プラズマは、もはや過去の技術ではないのかという懸念が大方の人にあるだろう。私にもそれはあった。
しかし、篠田さんのお話を聞くと、その懸念は解消された。まずプラズマは、埃の影響が少なく、したがって、液晶や有機ELのようなクリーンルームでの生産が必要なく、設備投資がはるかに少なくていいという利点がある。また、日本が韓国勢に敗れた大きな原因が、コスト低下のためにパネルの巨大化が不可欠であり、そのための膨大な投資において日本企業は不利であったことにあるのだが、シプラは、それほどの巨大な設備は必要ではない。1メートル角のディスプレイを、必要なだけ作って、繋げば良いのだ。
さらに、シプラが大型ディスプレイと根本的に異なるのは、規格化されたきわめて大量の製品を作るのではなく、一つ一つが異なる製品を受注して生産することである。同一の製品の膨大な量の大量生産、大量販売で、日本は韓国に敗れたのだが、シプラは、そうした製品ではない。これは、これから日本企業が進むべき有力な方向の一つである。
肝心であるのは、個別の商品の市場開拓である。すでに各所への導入が始まっていて、天文科学館、美術館、ショウルーム、モーターショー、百貨店、市の危機管理センターなどであるが、ユニークであるのは、本を広げた形状のディスプレイに仕立てたものである。その微妙な曲がり具合を作ることが出来るのだ。このフレキシブルの特性は、応用範囲を大きく広げるだろう。自由奔放なデザインを可能にするのであり、卓抜なデザインの巨大ディスプレイが次ぎ次と誕生して、大きな話題になって、市場の広がりを急速に拡大する期待が持てると予感した。
なお、フレキシブルと言えば有機ELだが、篠田さんのお話では、まだ技術的に確立されてなく、かなり難しそうだとのことである。
篠田さんのお話を聞きながら頭に浮かんだのは、これまで日本の技術は、難しいことに挑戦して、困難を乗り越えてきたのだが、いっそう難しい領域に入っているのではないか、その突破に目が集中してしまって、他を見ていないのではないか、そして、ようやく突破して実用化に成功しても、大量生産の段階で韓国に抜かれてしまうのである。
そこで
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