Home > イノベーションフォーラム21 > 新時代へ向けたリコーの事業・経営構造改革/リコー近藤史朗会長

新時代へ向けたリコーの事業・経営構造改革/リコー近藤史朗会長

《と   き》 2013年8月29日 
《講  師 》 株式会社リコー 代表取締役 会長執行役員 近藤史朗氏
《コーディネーター》 放送大学 名誉教授 森谷正規氏

 

 どこでもオフィスを目指して経営改革 

「イノベーションフォーラム21」の2013年度前期第5回は、リコーの代表取締役会長である近藤史朗さんのお話であり、『画像機器のデジタル化と新時代へ向けたリコーの事業・経営構造改革』というテーマであった。近藤さんは、1990年代から2000年代にかけてリコーを急拡大させた主柱となったデジタル複写機を開発された方であり、また2007年に社長に就任して、折からの厳しい経済環境の中で、新しい時代へ向けてリコーの経営改革を成功させた功績が非常に大きい。
リコーは、日本の大半の企業がそうであるが、早くからミング賞を受賞して
TQCに大きな力を注いできた。つまり、モノづくりの絶えざる向上を強く指向していた。ところが、90年代に入って、経済バブル崩壊もあって、業績が急速に悪化した。それは、モノばかりではなく、コトが重要であることの認識が遅れて、変革ができなかったことによるものだと、近藤さんはおっしゃる。
 時代は、モノ+コトに変わってきて、それに基づいてビジネスモデルを変革させないといけなかったのだ。コトというのは、機能の十分な発揮であり、サービスを強化することである。それを実現した企業の具体例をいくつも挙げたが、代表的であるのがアップルであり、日本の大手電機メーカーとは、この点において非常に大きく異なる。
 その他に、保守、整備をビジネスに取り込んだGE、コンピュータシステムKOMTRAXでサービスを充実させたコマツ、インバーターの省エネサービスで大きな成果を挙げている日立などを挙げた。今のイノベーションは、コトを取り込んでこそ実現するという。 ところが、イノベーションジレンマに気をつけねばならないとも言う。それは、客の声が必ずしも真実ではないことだ。客の要望に一つ一つ応えていこうとすることでは、機器が複雑化するばかりであり、真のイノベーションは実現できない。
 そこで、リコーのような業種において最も重要であるのが、オフィスの未来を描くことである。その基本は、「どこでもオフィス」であると言う。いつでもどこでも、オフィス業務ができるようにすることだ。それを目指すことによって数多くの新しいシステムが生まれた。顧客の企業のオフィス業務を手助けするMDS(マネジメント・ドキュメント・サービス)、どこでもすぐにセッティングできてネットワーク機能を持ち小型で持ち運びが容易なプロジェクションシステム、いつでもどこでもだれとでも会議ができるビデオ会議システム、LEDをフルに活用する照明のエコソリューションシステムなどである。
「未来起点で創造し、今を変革する」という言葉で、リコーが目指すイノベーションを締めくくられた。

知識創造型オフィスを創る
こうしたイノベーションを実現する技術開発のあり方についての話もされた。まずは、90年代に自らが行ったデジタル複写機の開発であるが、それまで近藤さんはファクシミリの開発に専念していた。ところが94年に突然、複写機を開発するよう命じられた。それに抗して、会社を辞めようとまで思ったが、夫人にそれを言うと、「辞めていいわよ」とあっさり言われて、逆に思い止どまったという。
 ファクシミリの製品開発で次々と大きな成果を挙げていて、会社としては、将来性が非常に大きい複写機に、エースを投入しようということになったのであろう。それまでリコーは、複写機ではキヤノンなどと比べて、はるかに劣勢であった。
 そこで、まずは価格競争力を高めることだが、「コストは1、2割下げるのは困難だが、半分にはできる」ということをある人に言われて、V=F/Cに思いついた。価値Vは機能Fを価格(コスト)Cで割った値であり、機能を格段に大きくすればいいということだ。そこで、CDラジカセのように多くの機能を持たせようと、複写機にファクシミリとプリンタの機能を加えることにして、それをデジタル複写機としてまとめて製品にするという発想を持った。
 そこで開発されたのがMF200であり、この画期的な新機種が圧倒的に顧客に支持された。リコーの業績はたちまち、鰻昇りに上がっていった。
 この大成功で、リコーはデジタル化戦略に邁進することになった。デジタル化は、言葉としては誰でも言い始めていたが、きわめて大きな実績があって、デジタル化へ大きく動き始めた。
 そのデジタル化の中に、開発のありようの非常に大きな変革も入っているのが、驚かされる新鮮な話であった。それは、「作らずに、創る」というのである。「作らずに」とはどうゆうことであるのか。「せめて郡山にしてくれ」と言ったというジョークを話されたが、新製品開発に際して、それまでは試作機を千台も作っていたというのだ。仙台(千台)はいかにも多すぎるというジョークである。
 そこで、試作機ゼロを目標に掲げた。CADを駆使して、バーチャルな試作をやって、試作機をできるだけ無くそうというのである。そのために、設計プロセスの改革を行った。 近藤さんは、NHKの「プロジェクトX」に皮肉を言われたが、我武者羅に開発に突き進むのは美談ではあるが、どのようなやり方で開発するのか、そのプロセスこそがいまでは重要であるという。確かに大成功すれば美談になるが、やり方がまずくて、なかなか成果がでずに立ち遅れしまったとい事例も多いのだろう。
 効果的、効率的な開発のプロセス、そのありようは、非常に重要なことであり、これはしばしば見落とされているのではないか。先に、「イノベーションのジレンマ」という話が出たが、これは「イノベーションの落とし穴」というべきものだろう。落ちないように気をつけないといけない。
 新しいものへ、新しいやりかたでチャレンジするのが、イノベーションをもたらす。その基本は、将来を見通すことであり、リコーとしては、「知識創造型オフィスを創る」ということであると締めくくられた。

(文責 森谷正規)



Home > イノベーションフォーラム21 > 次世代型補助人工心臓『エバハートの開発と実用化に向けた夢と苦闘』/  東京女子医大 山崎健二氏・ミスズ工業山崎壯一氏

メタ情報
フィード

Return to page top