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トヨタプリウスの先行開発を振り返って 元トヨタ自動車 佐々木正一氏

《と   き》 2013年12月19日 
《講  師 》 慶應義塾大学大学院 教授  元トヨタ自動車 佐々木正一氏
《コーディネーター》 放送大学 名誉教授 森谷正規氏

 

 「イノベーションフォーラム」2013年度後期第3回は、元トヨタ自動車で現在は慶応義塾大学大学院教授である佐々木正一さんの『トヨタプリウスの先行開発を振り返って、今後のエコカーへのビジョン』と題するお話であった。 内容は三つに別れていて、プリウスの技術概要、プリウスの開発風土、エコカーの将来技術であった。まずはハイブリッド車の原理と種類であり、トヨタは「シリーズパラレル方式」を採用したのだが、それは機構が簡素であり、また利用する電機部品の将来のポテンシャルが大きいことからであった。プラネタリウムギアを用いるのだが、その機構についての非常に詳しい説明があった。 ハイブリッド車は、発進、通常走行、全開加速、減速制動、バッテリー充電のそれぞれの状態において、動力や電力の伝達が異なるのであり、それを制御するのが大変なことであるのが良く分かった。
 佐々木さんは電気工学の出身であり、電気自動車の研究開発に従事していて、プリウスの開発では最初から加わっていて、トヨタにおいてこの全く新しい車の開発がいかに進められたのかを詳しく話されて、非常に興味深かった。
 その出発は、21世紀の車を目指す「G21」プロジェクトであり、当初はハイブリッド車と決めていた訳ではなかったと言う。経営トップが非常に長期的な視野で未来の車を開発しようという明確な姿勢をもっていて、さすがにトヨタである。
 開発から市販までの大まかな日程を示されたが、驚くのはその短さである。ハイブリッド車の開発チームが発足したのは、1995年の1月であり、量産を開始したのは97年の12月である。わずか3年であるが、一般の新車の開発でも、2-3年はかけているのではないか。トヨタが、ハイブリッド車の開発に全社を挙げて全力を投入したことが推察される。
 その開発の課題は非常に多い。ハイブリッドの機構に加えて、車として十分な性能を発揮させるためにやらねばならなかったことが、次々に出てきた。佐々木さんが挙げられたのは、電池のハイブリッド車に向けての開発、今挙げた複雑な走行状態でのシステム制御アルゴリズムの開発、各コンポーネントの使用限界の明確化と保証、故障時のフェールセイフ機能の付与などである。このような地味に見える開発のそれぞれを高いレベルで達成するのが、自動車の開発である。
このような数多くの開発課題を抱えながら、3年で実現してしまうのであるから、当然ながら開発チームは一騎当千であったのだろう。その能力を佐々木さんは具体的に挙げていた。専門能力に加えて、チャレンジ精神が豊富、高いモラルと責任感、自分が先に進んで挑戦する自主性などである。
 さらに、車の開発でトヨタが採用しているチーフエンジニア制度についても詳しく話された。今は副社長になっている内山田さんがチーフエンジニアであったのだが、その備えるべき能力について、システムインテグレータとしての役割を示された。非常に多くの分野の技術をまとめるインテグレーション、それを各人の意見をうまく取り上げて実行するフレキシビリティが、チーフエンジニアには必要であるのだ。
トヨタの開発風土については、顧客優先、現地現物、なぜなぜ5回、大部屋を示された。なぜなぜ5回というのは、問題の原因追及で、なぜかなぜかと5回も考えるということである。
 エコカーの将来については、プラグインハイブリッド車の重要性を強調され、燃料電池自動車の実用化も近いと話された。
 最先端の車を世界で最初に開発実用化するというチャレンジ精神があり、規模で言えば世界でトップに立っているトヨタという会社の凄さが良く分かるお話であった。

 (文責 森谷正規)

 

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