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差別化という言葉

新経営研究会 代表  松尾 隆

 企業の命とは、企業規模の大小、ビジネスの如何を問わず、それは企業が持つ夢と精神、この企業をこうあらしめたいと願うトップの強烈な欲求とその実現への確固たる意思である、と思う。
 技術・製品・事業・企業文化というものも、この初めにある企業の夢と精神とフィロソフィー、そしてそこに携わる人々の、その結晶に他ならない。
 最近、‘差別化’という言葉がよく使われる。
 しかし、私はこの‘差別化’という言葉はあまり好きでない。
 ‘違い’とか‘差別化’というのは結果である。
 結果の目的化が起っているのではないか?
 重要なのは、今自らが実現したいと志しているもの、何をどう在らしめたいと願っているのかという強い思い、求めている独自の価値、或いは世界ともいうべきものである。
  かつて、アルフレッド・P・スローンは、その著‘GMと共に’において、「如何なる事業を経営するにも、その産業についての独自の定見が不可欠である。同じ産業に属すると見られる企業の間に、その産業についての考え方に違いがあれば、それは最も強力かつ決定的な形で、相互の競争力として現れる傾向にある。」と述べているが、将に至言である。
 差別化とは、比肩の世界の言葉に過ぎない。
 それは、差別化すべき相手があって始めてあり得るものである。しかも、その尺度は常に外部に在って、自らの内にない。
 差別化を目的意識した技術・製品開発、事業経営をつづけていると、いつか本来の夢と志を見失い、自らの原点をも忘れて、ついには真の競争相手を見誤ってしまうばかりか、独自の時代観を持てなくなってしまう。
 差別化から生まれて来る技術・製品・事業でなく、独自の時代観と定見の下、自らの志・夢・思いに根ざした技術、製品・事業というものを生み出して行けないものか。
 そこに、自らの特徴と強みを活かした、世界の先行指標と成れる独自の技術・製品と独自の存在価値も創出され、このグローバル化の時代における真のリーダーシップも生まれて来る可能性もあるのだと思う。
 このグローバル化の中の企業環境激変の今日、今や待ったなしの、もはや小手先では如何ともし難い、本質的な事態が起っている。時代の要請に応え得る独自の価値の創出と、独自の存在価値が問われている。
 送り手の熱い思い、確固とした志から生み出されたものでなく、目先の競争と差別化が目的で生まれて来た技術・製品がどうして人々の感動を呼び、そこに携わる人々の心を結集して行くことが出来るだろうか。

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