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最先端の脳神経科学から食を解き明かす

と き :2008年4月22日
会 場 :森戸記念館
ご講演 :味の素(株)ライフサイエンス研究所 上席理事 鳥居邦夫氏
コーディネーター:LCA大学院大学 副学長 森谷正規氏
 

 「21世紀フォーラム」2008年度前期の第2回は、味の素株式会社のライフサイエンス研究所上席理事である鳥居邦夫さんから「最先端の脳神経科学から食を解き明かす」と題するお話をいただいた。鳥居さんは、このフォーラムにしばしば聴講に来られるお馴染みである。
 お話は、鳥居さんの味の素の入社時から始まった。当時、味の素の成分であるグルタミン酸が、脳に悪影響を及ぼすという論が世に出て、自分はそれに反論する研究をするから採用してくれと申し出たとの面白いやりとりがまず紹介された。採用されたただちに研究した結果、マウスには影響があるが、人間にはまったくないという結論を出して、米国のFDAに認めて貰ったとのことであった。鳥居さんの話ぶりはとても威勢が良く、しばしば笑いを誘う楽しい話が、自身のエピソードとともに始まる。
   話は、人類の発展の歴史から説くものであり、原人はアフリカから出て、世界に広まったが、なぜ、白人、東洋人、黒人が生まれたのか、食糧生産がいかに文明を生んだのか、産業革命がなぜ生まれたのかなどであり、それぞれに食糧が密接にからんでいることを示した。
 次いで、食事についてのさまざまな話題が次々に、速射砲のように飛び出した。なかでも、高齢化の時代の重大な問題として、老齢になって食べたものの嚥下ができなくなると、胃に管で食物を入れて栄養を補っても、身体は一気に弱ってしまうという話が頭に残り、美味しく食べることの重要性を思い知らされた。
 味覚と栄養については体系的な話があり、脳が食べてもいいとする情報を出すのに、味覚は深くかかわっていて、それが狂うと、食事、栄養のバランスがおかしくなって、肥満、虫歯、糖尿病、高血圧症などの病気の原因になるのであり、味覚は健康の維持にも非常に重要であると知らされた。
 次いで、その味覚についての詳しい話がある。味覚の中身としてこれまで、「甘い」、「酸っぱい」、「塩辛い」、「苦い」の四つがあったが、そこに「うま味」が加わった。これは「umami」として国際的に使われ、学術用語にもなっている。日本語がそのまま外国語の一つとして使われている言葉はいくつかあるが、umamiはその一つであり、日本がいわば、うま味先進国であると言えるのだ。なお、からしなどの「辛味」は、味覚ではなく、刺激であるとのことだ。
 そのうま味を育んできた日本の歴史が語られた。大化改新で税を取るようになり、それは米だが、米が取れない地域は、あわびなど乾物で税を納める。それを得た公御は、湯で戻して、野菜を煮るが、その乾物にうま味がたっぷり入っていて、美味しいのである。
 やがて、「ひしお」が発達した。発酵させてつくるのだが、野菜を原料にする「くさびしお」が漬物であり、魚を原料にする「ししびしお」が調味料になり、穀物を原料にする「こくびしお」が味噌になった。
 日本において早くからうま味が発達していて、それはまず貴族文化として生まれ、やがて庶民に広がったのである。
   そして明治になって、池田菊苗博士が、1908年にうま味の成分としてグルタミン酸を発見する。それが味の素の出発である。今年はちょうど100周年であり、味の素は記念のプロジェクトを計画している。グルタミン酸は、味の素が積極的に世界に広げたことによって、いまでは、156カ国に広がり、年間200万トンも生産されている。
   いよいよ味覚と脳の話に展開するが、舌には1万2千個の味蕾があって、味覚神経を通して脳に伝えられる。味蕾は胎児のころから生まれていて、羊水はコンソメの味であり、したがってコンソメは美味しく感じるのだそうである。
   味覚、うま味と身体との関係が、豊富な実験データ、グラフで示される。粘液や膵液の分泌にうま味が深く関係している、うま味の物質がないと脳は認識できない、飽満感もうま味に深く関係している、コンソメ、ホンダシなどを摂取すると身体が暖まった感が出るが、それは基礎代謝が良くなるからであり、肥満防止に役立つなどと、興味がある話が次々に出てきた。
   うま味が 健康にとって非常に重要であることが良く分かった。とくにいま重大な問題になっている肥満に深くかかわっている。
   その後、意見交換、質疑応答が活発であった。面白かったのは、英国の食事は不味いという話から、国による味覚の違いに話が展開したが、味蕾の人種による違いはなく、脳での情報処理の問題であり、味に関心がないと、その面で遅れがあるのかもしれないという結論であった。

(2008年8月 森谷正規)

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