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カーボンナノチューブの実用化技術、導電性繊維の開発/茶久染色

《と   き》2012年9月21日

《訪問先 》茶久染色(株)本社工場(愛知県・一宮市)
 
《講  師 》ナノマテリアル応用開発事業部 事業部長 蜂矢雅明氏
《コーディネーター》テクノ・ビジョン代表、元帝人(株)取締役 研究部門長 相馬和彦氏

 

平成24年9月21日に、愛知県一宮市にある茶久染色の本社工場を訪問した。茶九染色は大正5年に設立され、古くから繊維産業の盛んな一宮市で、天然繊維や合成繊維の染色を専門としてきた。どちらかと言えば、伝統技術を基盤としてきた企業である。そういう企業が、最新技術であるカーボンナノチューブ(CNT)を使用した導電性繊維を開発していると聞き、最新技術と伝統技術の組み合わせや開発を始めた経緯などに強い関心を抱いた。CNTコーティング導電性繊維は、第4回日本ものづくり大賞を受賞している。今回は技術開発の背景や動機を開発者個人からお聴きし、更には試験設備まで見学出来ることになったため、大きな期待を持って訪問した。

最初に本社工場の見学を行ったが、その際に印象に残ったことが二つあった。一つは途中で出会った社員の方々からどこでも気持ちの良い挨拶を受け、明るい職場だと感じたこと、二つ目は染色工程現場の床が綺麗に維持されていたことである。染色工程は溶媒や水の使用が多く、常に床が濡れて汚れているのが普通であるが、この工場では床は濡れておらず、乾いて綺麗であった。これらの点からも、茶久染色の経営方針とその浸透度の高さが納得出来た。

①   ショールーム

商品や特徴的な製造工程に関するサンプルや説明資料が展示されている。CNTコーティング導電性繊維、それを用いた融雪マット。化粧用の刷毛(PET製)、チーズ染色法、光沢型染色繊維、セラミック加工繊維(後加工)など。

②   試験室

車両や衣料用で、顧客の要求色に合っているかどうかを調べる。サンプル量は5g。ボビンに巻いて色合わせをするが、ここの特徴は、色が堅牢であること、納期が早いことである。注文を朝受ければ、夕方には完成品が出荷出来る。色合わせは、顧客の要求する色をコンピューターで解析し、使用する染料を特定するシステムを採用していて、2~3回のテストで色合わせは完了するが、最終確認は職人が目で行っている。

③   受け入れ工程

チーズは外注で巻いて貰っているが、染色が均一になるよう、どこを押しても均一の固さになるように巻いてある。

④   仕込み工程

染色タンクに仕込む際には、一本のセンター棒にチーズを6個通すが、センターが60本あるので、一回にチーズ360個が染色出来る。センターは中空で穴が開いており、染料液が中から外に流れる仕組みだが、均一に染色するためには、センターの穴(数、口径、位置)や流す圧力に工夫がある。

⑤   先掛けワインダー

細い糸の場合には切れやすいので、染色前にワインダーで纏めて柔らかく均一に巻く。

⑥   原料置き場

トヨタの指導を受けて、カンバン方式を取っている。染料はラックに収めてあり、PCの指示でラックから取り出し、必要量を計量する。指示と合わないとNOが出る。使用している染料や薬品には、国産品はほとんどない。中国製は品質が不安定。

⑦   染色工程

技術の中心となる工程で、染色タンク15台が2列に並んでいる。プログラムによる自動運転で24時間操業しているが、運転要員は2名。タンクが加熱されるため、室内の気温は45~50℃と暑い。床は2mほど高くなっていて、濡れておらず綺麗に維持されている。染色工程の良品率は90~95%であるが、不良品は追加染色したり、脱色したりでカバー可能なため、捨てるものは殆ど出ない。オーダーによって、ロット毎に仕込むチーズ数のバラツキが出てしまう。5S活動など、改善活動を継続している。

⑧   乾燥ライン

加圧して熱風で乾かし、風合いを出す。

⑨   染色工程II

100kg以下の少量染色の場合に使用するライン。

⑩   試作工程

1~15kg程度の量で車両用途の試作を行う。

⑪   取り出し工程

染色タンクからチーズを取り出す。チーズは1個の重さが1~kg程度あるので、横転機でタンクを斜めにし、取り出しやすく工夫している。

⑫   検査室

一番上と下のチーズを1個ずつ検査する。OKのものを、更に専門の染色技術者がチェック後に出荷する。

次いでCNT導電性繊維の試作機のある馬引工場を見学した。工程の目玉は、CNTを繊維表面に含浸させる方法で、色々と試した結果、超音波振動法に着目した。CNT分散液に繊維を含浸させる際に超音波振動を与えると、期待通りにCNTが繊維表面に付着した。CNTの濃度は約12g/kg液。それを二段階でゆっくり乾燥させてから巻き取る。この乾燥機がスペース的には大きな比率を占めている。試作機には、巻き取りロールが一段に6本並び、それが8段ある巻き取り機が2台設置されているので、全部で96本のロールで巻き取る。巻き取り速度は20m/minとゆっくりである。

 

工場見学から戻ってから、今枝憲彦代表取締役から、CNT導電性繊維の次のステップに期待しているとのご挨拶があり、次いでCNT導電性繊維の開発推進者であるナノマテリアル応用開発事業部 事業部長の蜂矢雅明氏より、「カーボンナノチューブ導電繊維製造開発」と題する講演を伺った。

茶久染色は、大正5年に一宮市で創業され、年商は13.8億円、従業員は75名である。事業の中心は天然繊維、合成繊維の原料染め及びチーズ染めであるが、糸染めは人手が掛かる、機械化しにくいなどの理由で海外生産に移行している。茶久は海外ではタイでチーズ染めを行っている。染め以外の機能加工として、耐熱、難燃、消臭・抗菌、撥水などの加工も実施している。

CNT導電性繊維研究のきっかけは、北海道大学古月教授の分散液の研究開発に遡る。先生が分散液は開発したものの、有意義な応用が見いだせないでいたものをクラレリビングより紹介された。クラレリビングでは合成繊維への練り込みを試みたが、アスペクト比が高いためにCNTが切れてしまっていた。これを茶久で高温、高圧の染色法でトライしたが失敗した。そこで発想を変え、染めるのではなく塗る方法へと転換した。これが大きな反響を呼び、本格的な研究を開始した。

研究を開始したところ、すぐに問題に突き当たった。まず、CNT分散液が1本の繊維表面に均一に塗布出来ず、水玉になったボロボロと落ちてしまった。増粘定着液を試行錯誤で当たり、何とかこれはクリアした結果、1本の繊維抵抗値ではあるが、帯電防止よりも導電繊維を目指せる範囲が出来た。次にマルチフィラメントにトライしたが、フィラメントの芯までCNTが到達せず、CNTの長さ方向の安定的なネットワーク、剥離への耐久性、耐水性付与が必要となった。この時に振動効果に着目し、CNTを内部まで浸透させることに成功し、ビート・プリント・マシンを開発した。この結果を基に協力者を得て、平成20年度地域イノベーション創出開発研究事業に認定された。

開発テーマとしては、繊維へのCNT精密コーティング技術を検討して来た。それぞれに以下のような目標値を設定し、一部は達成しつつある。

  帯電防止布帛用導電繊維  10⁵Ω/cm

    ベクトラン導電繊維    100Ω/cm

  複写機用ブラシ用導電繊維 10⁹Ω/cm

  発熱布帛用導電発電繊維  1000Ω/cm

発熱布帛では、北海道で「流氷のろっこ号」の水タンク凍結防止や道路の融雪マットで評価している。

非金属電線用導電繊維では、現状100Ω/cmの導電性を10⁰~10⁻ⁿΩ/cmに下げることが目標だが、モデル実験として銀を用いた場合、このレベルが達成可能との感触を得ている。

CNTとPET繊維の組み合わせでは、現在の加工方法の範囲でMWCNTを用いていては達成困難だと認識している。そのため、SWCNTの使用を検討している。目標値が達成出来れば、軽量、屈曲疲労に強い、腐食劣化がないなどのメリットが実現出来るが、課題もある。一つはCNTを工場で取り扱う時の、労働上の安全性だが、公的機関による計測では、下限以上の濃度でCNTが労働環境に浮遊していることはないとの結果が得られている。技術的には、CNTが高価であること、触媒を含むために精製が必要であるなどの課題を解決する必要がある。今後はこの目標を目指して邁進したい。

講演終了後、幾つかの質問が出たので、以下に要約する。

①   熱伝導も良さそうだが、それを利用することは検討したか?

→ 未だ検討したことはない。

②   コストはどの位になるか?

→ 織物の価格は安いが、最終価格は不明である。

③   CRT塗布のために界面活性剤を使用しているが、これをなくする可能性は?

→ 洗っても後で除去することは難しい。

④   外部からの関心は?

→ 電線代替については、中国から関心が示されたが、対応はしていない。

⑤   超伝導繊維の可能性として、銀をモデルにしたデモが示されたが、この製法は?

→ 銀ペーストを利用したが、予想以上に高い伝導性が得られた。

⑥   電線用途での目標値はどの位か?

→ まずは抵抗値を下げることに注力したい。

 

今回の訪問では、研究者のあるべき姿を久しぶりに見ることが出来、ほっとした感に包まれた。周囲からは困難とか無謀とか言われる高い目標を設定し、直面する課題に一つ一つ挫けることなく挑戦し続けるのは、並大抵のことではない。それを可能とするのは、研究者の夢と志、それを支える経営者の理解の二つである。どちらが欠けても、継続は不可能である。茶久染色では、その二つが共存している典型例を見ることが出来た。最近は、こういう例が極めて少なくなったという嘆きを多く聞くようになったが、今回の訪問で良い具体例をお聞し、安堵の気持ちを持って辞去することが出来た。成功までには、今後も多くの困難が予想されるが、「成功とは、成功するまで続けることである」という松下幸之助氏の言葉の通り、継続実施されることを祈念している。

(文責 相馬和彦)

 

 

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