- 2014-03-17 (月) 11:12
- イノベーションフォーラム21
《と き》2013年11月28日
《訪問先 》鹿島建設(株) 技術研究所(東京都・調布市)
《講 師 》鹿島建設(株) 常務執行役員 技術研究所長 戸河里 敏氏
《コーディネーター》テクノ・ビジョン代表、元帝人(株)取締役 研究部門長 相馬和彦氏
2013年度後期第1回は、平成25年11月28日に鹿島建設の技術研究所を訪問した。鹿島建設は1840年に創業されて以来、鉄道、ダム(大峯ダム)、高速道路、トンネル(丹那・新丹那トンネル)、高層ビル(霞ヶ関ビル)など日本の経済的発展に必要であった長大橋梁、超高層ビル、大深度トンネルなどの建物やインフラを先頭に立って手掛けて来た。それを支える技術開発のため、1949年には業界初の技術研究所を設立している。
爾来構築して来た建設技術は、単に最先端の大型橋梁、ビル、トンネルばかりでなく、日本の文化財保存にも威力を発揮している。最近手掛けたプロジェクトには、国宝姫路城の天守閣保存・修理および東京駅丸の内駅舎保存・復元工事がある。
今回は、同社の勝れた建設技術を開発してきた技術研究所を訪問した。東北大震災の記憶が新しいなか、首都直下型地震や南海トラフ巨大地震で甚大な被害予想が出され、災害低減や安全・安心への関心は極めて高くなっている。今回は巨大インフラの災害低減を含め、建設技術の最新状況および今後の開発方向をお聞き出来ることを期待して訪問した。
最初に常務執行役員 技術研究所長の戸河里敏氏より研究所概要のご紹介があった。研究所員は258名、内研究員が211名、補助者が13名で、11グループに分かれ、グループ人員は約20名の構成となっている。土木と建築用コンクリートは、別グループ。大型構造実験のため、1984年以来西調布でやって来た大型実験棟をここに新設した。葉山では水関係、検見川では緑化・環境を研究している。
DVDによる会社紹介の後で、戸河里敏氏より「鹿島建設が挑む先端技術開発-今を拓き、未来を拓く-」と題する講演をお聞きした。
技術研究所は1949年に設立されたが、業界では初であった。研究技術会議が部門技術開発(DR的)と基盤技術開発(CR的)を束ねている。CRでは、直近の競争力強化と次世代の技術力強化を実施している。現場の技術支援は、年間500件程度ある。
技術開発の重点分野として力を入れてきたのには、大分して安全・安心、災害低減と環境・エネルギーの二分野がある。
1.安全・安心、災害低減
1984年の十勝沖地震で、鉄筋の建物が初めて破壊されたため、鉄筋向けの耐震法が制定された。3月11日の東北大震災では、旧耐震建物の補強の必要性が認識され、天井や壁構造の落下対策を業界全体で検討している。長周期地震動は地下の滞積地盤構造に依存するので、継続的観測を行ってチューニングを実施している。
免震構造は1983年に初めて建物に応用されたが、阪神大地震までは僅か20棟のみしか完成しておらず、新技術が実際に普及するまでの時間の遅れを如実に示している。
制震構造は1985年に研究が開始され、東日本大震災での測定では、長周期震動を1/2~1/3に減少することが出来た。「怖かった」という恐怖感の減少に効果があった。
RDMSモニターを開発中。これは地震時の危険度及び地震後の変位有無による使用可否を判定するシステムであるが、未だ不十分な段階である。
ライフラインについて、被害及び影響分析を行い、対策を支援するシステムを検討中。上下水道については、京大と共同研究を行っている。
津波実験では、岸壁や石油タンクに浮体が衝突した場合や、防潮堤への影響などを調べている。東北大学のプログラムを利用して、対策技術を検討している。
2.環境エネルギー関連
Net Zero Energy Buildingの頭文字を採り、ZEBと称する建物の総合的な省エネ対策を実施している。エコ・デザイン、エコ・ワークスタイル、エネルギー・マナジメントで80%、再生可能エネルギーで20%の省エネをし、ZEBを実現する。2011年10月に、技術研究所の本館で実験した。
ダイレクト送風+個別空調、机上証明+天井照明の組み合わせにより、基準値と比較して62%の省エネが可能となった。これに太陽熱、地中熱、河川熱利用を加えると、補助金があれば投資回収が可能な範囲となった。
バイオガス利用システム「メタクレス」を霧島酒造に設置した。酒粕のガス化で、40,000㎥/日の供給が可能で、一般家庭5,000軒分に相当するが、原料による変動が大きい。
風力発電を千葉で、竹中工務店と共同による高炉スラグ利用CO2ミニマム・コンクリートを、いずれもNEDOプロジェクトとして実施している。
3.最近の重点分野
最近力を入れている分野としては、以下の例がある。
①行動モニタリング
空間の使われ方を「可視化」する。レーザーモニタリングにより、オフィス活動を計測して可視化する。
②シミュレーション技術
気流や風環境のシミュレーションや、工事で出る粉塵の拡散に応用している。
③自動化施行
建設機械の自動運転に応用したい。福島第一発電所で、がれき処理を夜間遠隔操作で運転中。移動のみ(約1.5km)ではあるが、自動運転している。
技術研究所としては、本質的な課題は何か?を追求し、優れた知恵・知者を集め、解決法を実践することによって今後も進化して行きたい。
スケジュールの関係で、ここで質疑応答の時間を持った。パーティー会場での会話で得られた情報を含め、要旨のみ以下に纏める。
①様々な材料が建設には使用されているが、材料メーカーとの共同研究は実施しているのか? 自動車メーカーなどは、積極的に共同開発をやっているが。
→ 基本は材料メーカーの供給する材料を利用する立場。素材の基礎研究は少ない。以前にアラミドの利用で共同研究したが、旨く行かず、それに懲りて二度とやらなくなってしまった。最初から大規模でやらず、小さく始めたら良かったが。産総研からは、そういう助言を受けている。
②自動運転技術は、コマツや多くの自動車メーカーが開発している。この技術は広く社外から取り入れたら良いのでは?
③建物、トンネル、港湾などに広く使用されているコンクリートの耐用年数はどの位か?
→ 評価と補修の双方が耐用ではポイントになる。高耐久性コンクリートを開発中だが、構造と材料の両方の検討が必要。コンクリート単体では、5,000年前の中国の遺跡に存在が確認されており、コンクリート自体の耐久性は長期的である。米国では100年間、英国では75年間補修しながら持つように設計するのが基本的な考え方である。これに従えば、100年は優に持つはずである。国内で建設後の短い期間に建物が壊されるのは、天井が低くて改修に不便だとか、建て替えた方が早いなど耐用年数とは別の視点で判断されるためである。
④グローバル化への対応は?
→ 国内では鹿島建設は設計と施行を自社やっているが、世界の建設業界では設計と施行は別会社で行うのが普通。そのため、現時点では、鹿島は海外では施行のみ参加している。設計と施行を自社で行うと、設計-施行時の柔軟性、完成物の信頼性に強みが発揮出来るので、これをグローバル化で生かす道はある。
講演終了後、研究所内部を見学した。主な設備は以下の通りである。
①高性能3次元震動台
2011年1月に三台目の震動台として設置。長周期地震動の再現可能。2階建てに応用可能で、天井、壁のテストが出来る。見学時には東日本大震災時の仙台での震動が目の前で再現され、揺れの凄さを実感出来た。震動台脇に、耐震テスト用の墓石サンプルが置かれていた。
②屋上緑化
厚さ10㎝の人工地「麗ソイル」が敷かれており、ヒートアイランド防止と断熱効果を狙っている。水辺にはポーラスコンクリートが使用されている。
③コンクリート製品展示
「サクセム」(Suq Cem)は羽田空港の滑走路用特殊鋼繊維強化コンクリートで、コストは通常製品の20倍する。「エイエン」(Eien)は1週間の炭酸化養生を施し、表面を緻密化したもので、一万年の長寿命化を目標としたもの。5,000年前のセメントを解析して開発した。CO2-Suicomは炭酸ガスを吸収させ、炭酸ガス発生量を減らした。炭酸ガスを固定して硬化するγC2Sを応用した。
③ECC(Engineered Cementitious Composites)
セメントにビニロン繊維を混ぜたもので、ひび割れを防止する。トンネル内面や高架橋の中性化抑制に効果がある。
④免震減衰ゴム
寿命は約60年あり、積層ゴムとオイルバッファーの組み合わせ。研究所建物の地下で見学出来るようになっている。
⑤構造実験
柱と梁の接合部分の強度試験設備。圧力壁を用いて、反発力の負荷試験を行っている。
⑥遠心模型
地盤のテストのため、遠心力で重力を再現する装置。最大200G、負荷500kgまで可能。液状化や崖崩れ対策のため、加速試験を行っている。
今回の技術研究所では、日本の経済的発展を支えた長大橋梁、超高層ビル、大深度トンネルなどの建物やインフラを、先頭に立って構築してきた鹿島建設の技術開発思想および開発現場を見学し、日本の建物やインフラの基礎に存在する安全や安心が納得出来た。
同時に、東北大震災で被った人為的な被害や、首都直下型地震や南海トラフ巨大地震で予想される甚大な被害に対しては、国として危惧の念を持たざるを得ない環境にある。国家的な大災害は、一企業だけが責任を負うことは出来ないが、建物やインフラの安全性については、建築に携わる企業への期待は大きい。材料や工法、さらには災害時の救済システム開発など既に着手している状況を知り、その期待は確認出来た。
建物やインフラの安全性向上には、講演で戸河里氏も再三述べているように総合システムの構築が必要である。過去の苦い経緯はあるにしても、素材や材料開発については材料メーカー、自動運転については重機・自動車メーカーなど、技術やノウハウを有する他企業との共同開発が少々少ないのが気になった。液晶テレビ、携帯電話、リチウム電池、自動車などの技術開発では、素材メーカー、部品メーカー、最終製品メーカー間の密接な協力で総合力が発揮されて来た。建設業界でも、その点での更なる一歩を期待した訪問となった。(文責 相馬和彦)