『小惑星探査機 ‘はやぶさ’ 構想、その実現に寄せた夢、 今後のビジョン』
「はやぶさ」は日本の科学技術の粋と叡智を結集し、2003年5月に打ち上げられた小惑星探査機。世界初のイオンエンジンを搭載し、世界初のイオンエンジンによる加速+「地球スウィングバイ(重力を使った加速を利用し、燃料なしで秒速4kmほどの加速を一気に行う)」に成功して、2005年9月、地球から3億Km離れた小惑星、日本のロケット開発のパイオニア糸川英夫博士に因んで名付けられた長辺わずか540mの「イトカワ」に到達。科学探査と世界初のサンプル採集を試みた後、2007年4月地球に進路を取った。しかしその後、姿勢制御装置の故障、化学エンジンの全損、電池切れ、通信途絶、イオンエンジンの停止など数々のアクシデントに見舞われ、一時は絶望視されたが、相互バックアップ、推進ガスと太陽帆による姿勢制御などの懸命の努力の結果、復旧に成功。2010年6月13日、南オーストラリア・ウーメラ砂漠に着陸し、7年60億kmの旅を終えた。カプセルは翌14日、無事回収され,18日に日本に到着し、6月24日、カプセルの開封作業が開始され、7月7日、カプセルから微粒子の取り出し作業開始。現在、内容物の調査が進められている。
川口淳一郎氏はこの壮大な夢のプロジェクト・マネージャー。
これまで人類がサンプルを持ち帰った天体は月だけ。しかし、月は変成して惑星誕生時の物質組成について知ることは出来ず、小惑星はその誕生の時の記録を留めている化石のような天体だという。従って、回収される量が少量であってもその科学的意義は極めて大きい。又、「はやぶさ」が今回世界で初めて搭載したイオンエンジンは、キセノンをイオン化して電気的に加速・噴射するもので、効率がよく、将来の宇宙探査技術として今回の実証は大変大きな功績となった。同じく、3億km離れた小惑星に自ら探査機が向かう「自律航法」の実証、人類初の知見を開いた小惑星「イトカワ」における科学探査、カプセルを地球にリターンさせ大気圏に再突入させる宇宙工学技術など、その数々の世界初の成果は日本で初めて科学誌「サイエンス」に特集された。このカプセル・リターン技術は、将来、火星からのサンプル・リターン技術に大きく役立つという。
又、「はやぶさ」が大きさわずか540 m×270m×210mの小惑星「イトカワ」へ降下、着地し、離陸を成し遂げ、写真撮影を行うには、時速約10万 Kmで公転する「イトカワ」に追いつき、両者が見かけ上の静止状態になるためには、同じ高速を維持しながら、誤差数 cmから数 mmの位置精度を保つという、驚異的超精密位置制御技術が必要だった。そして更に、プラズマ反応炉・視覚ロボット技術、耐熱先端材料、省エネ化技術など、日本の今日の最先端技術がこの「はやぶさ」を支えている。
「はやぶさ」には溢れる夢とロマン、その夢とロマンを達成させた感動の努力がある。そして、「はやぶさ」には、これまでの宇宙開発史に新しい1ページを書き加える「大成果」があったという。
「はやぶさ」はカプセルを分離後、その反動で不安定になった機体を2時間かけて立て直し、残った力をふり絞るように最後のミッション、地球撮影を行った。送信途中で通信が途絶え、下部が欠けた1枚の写真が届けられた。
2010年5月、「はやぶさ」は国際宇宙航行アカデミー(IAA)によって宇宙開発史上のトップ7に入る偉業と評価され、「イトカワに映る‘はやぶさ’の影」の写真が、「現代ロケット工学の開拓者ゴダードによる世界初の液体ロケット実験(1926)」、「人類初の宇宙飛行士ガガーリンの肖像(1961)」、「アポロによる人類初の月面足跡」(1969)」、「ヴォイジャーが見た土星の輪(1977-1980)」、「火星を探査するスピリットとオポテュニティー(2004)」、「国際宇宙ステーションISS(現在)」と共に、その創立50周年記念ロゴを飾る写真の1枚に選ばれた。
「はやぶさ」に代表される日本の宇宙への取り組みが如何に大きな日本の誇りであり、未来への希望となるか、プロジェクト・マネジャー川口淳一郎氏ご本人を親しくお囲みして噛み締めたい。
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