ものづくり・科学技術創造立国 日本復活への指針

今日のものづくりに携わる方々に是非触れてほしい、西岡棟梁の魂と精神

白鷹 幸伯 氏
鍛冶師:薬師寺西塔再興の際、西岡常一棟梁の懇望により千年の年月に耐える構造和釘の鍛造に携わる

昭和46年4月、当時私が勤めていた日本橋 木屋刃物店に西岡常一棟梁がひょっこり現われ、初対面の私に室町時代から断絶、消滅していた幻の「槍鉋」の形状、古代道具の復元などについて御教示いただいた上、「年老いた両親のそばへ一日も早く帰って、鍛冶屋を再開しなさい…」といっていただいた。
今、四国松山で鍛冶をやってますのは、西岡棟梁とのこの時の出合いのお陰です。
法隆寺に生まれて三才位からカンナを研ぎ始め、飛鳥から昭和の解体大修理に至る木造建築の大教科書の中で育った西岡師の言葉には、身にこたえる響きと重みがありました。
師はタタラとルツボを混同する位、決して鉄に詳しい方とはいえませんでしたが、古代釘や 古代道具で使われている鉄の観察は驚くべきもので、また古代建築を成した古代人の魂と技の洞察、その復元に寄せた師の精神と識見は将に至高のものでありました。
時代を経るに従って質を落としていく鉄とその時代背景の喝破。
「木は寸法で組まず木の癖で組め」に代表される、「木のいのち」に従った西岡師の本領…。
「自然を離れて、人間の知識だけですべてをつくり出そうとしているのが現代や。そんなもん文化やない。そんな ことではただテラテラするだけで、 向うが透き通って見えるようなことしか出来ませんな…。」
師の言葉の一つ一つに、今、現代の行き詰まりを打開する大きな鍵があると思うのです。

日本に十人のカルロス・ゴーン氏がいれば…

渡邊正太郎 氏
経済同友会 副代表幹事 
専務理事
花王(株) 前代表取締役副社長

我が国に改革目標を掲げた二人のリーダーが登場した。政治の小泉純一郎首相と日産自動車のカルロス・ゴーン氏である。ゴーン氏は当初「コスト・カッター」と仇名され、その傑出した現実主義者ゆえに日本人に戸惑いを与えた。
しかし、彼の理念はすべて定量化され、経営責任を見事にコミットメントする姿勢とその成果のスピードにより、あっという間に日本人の賛同を得る。曖昧で抵抗勢力との妥協を強いられる小泉政治とは異なり、ビジネスはスカッと透明で男らしい世界である。
日産再生の秘密については、既に多く語られ賞賛されている。私の理解は、彼の能力とルノーからの巨額な資本とが結合した起爆力である。初めて彼の講演を聞いた私の秘書までをコロッと説得させる明確さ、人にもこんなに優しいのかと感じさせるような表現力も魅力である。自動車業界きってのセールスマンとなっ て危機を救い、企業価値を上げて、株主と従業員の信頼を取り戻した。
世界にはしのぎを削る強力なライバルが包囲し、トヨタ、ホンダとの競争は激しさを増す。日産はその規模に見合った収益をあげる普通の会社に生まれ変わった。顧客が驚きかつ震えるように共鳴する日産カーの出現を、市場は期待と意地悪い目をもって見守る。
ゴーン氏は今、経営者として男冥利に尽きるも、真の評価への道のりは長く、私たちはそれをじっと見つめたい。
今日の新聞紙上を「りそな銀行」 の記事が覆う。日本に十人のカルロス・ゴーン氏がいれば、との思いもある。それは決して「外国の人でなければ」 と同義語ではない。日本の危機を担うにふさわしい日本人を見つけ出さず、また活躍を許さない社会を憂う。

求められている 21世紀を生き残る本物の技術の創出、大見教授の示唆

中村 末広 氏
(株)ソニー中村研究所社長
ソニー(株)顧問、前副社長
ベガの開発などテレビ部門を歩み、セミコンダクター、コアテクノロジー&ネットワークカンパニー プレジデントを歴任

1999年の秋期SEAJフォーラムで私共が講演し、初めて世に問うたソニーの半導体ミニライン・コンセプトが礎となり、それに共鳴した当時通産省の窪田課長のご尽力により、民間企業14社が参加するHALCA国家プロジェクトがスタートした。
これは、今日の半導体の微細化スピードに即応出来るタイムリーなライン構築と迅速な投資回収を可能にし、半導体生産の段階的投資によるリスク低減と小規模でも大規模ラインと同等のコスト、需要に即応した生産能力の順次拡大を実現しようとした画期的半導体生産システムを確立しようとするもので、官側からプロジェクトリーダーに東北大学の大見忠弘教授、民側からプロジェクト推進部門長にソニーの津守利郎が任命され、総勢35名の研究員が参加している。東北大学大見研究室での学問を取り入れた究極のミニファブ開発、現実の装置を使ったHALCAプロジェクト、何れも現在力強く推進されており、21世紀の新しい日本の可能性を開く開発として期待されている。
時代は大規模工場による競争ばかりでなく、日本はその得意とする省エネルギー、小規模・ユニークな生産方式で、激しく変化し多様化するニーズに対応出来る、新たな流れを生み出せると確信している。大見教授のご苦闘と本誌 でのご指摘は、ひとつ半導体分野に留まらず、21世紀を生き残る日本企業への重大な示唆に溢れるものである。

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